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第3話
「保健室行こう!」
「…も…ももちゃんって、呼ばないで」
「そんな事言ってる場合じゃないよ!早く行くよ!掴まって」
岸くんは見かけによらず強引で俺の肩に腕を回し支えて保健室に向かった。
…気のせいだろうか、ずっと見られてる感じがしていた。
入学初日を保健室で過ごすなんてついていない。
保健室に着いたのは良いが先生はいなくて、岸くんは職員室まで呼びに出かけた。
俺は寝るようにとベッドで寝かされていて、真っ白な天井を眺める。
…あんな事で動揺するなんて、自分が思ってるよりトラウマは深いのかもしれない。
瞳を閉じると何も考えなくていいみたいで安心して眠れそうだ。
誰かが優しく頭を撫でていた。
岸くん?先生?分からない…確認しようにも瞼がくっついて動かない。
…何だか疲れた、眠い。
そのまま意識がなくなった。
「…ももちゃん、みっけ」
ーーー
次に目を覚ました時は夕焼けに照らされた天井だった。
かなりの時間眠っていた事に血の気が引いた。
勢いで起き上がり頭がガンガン痛む。
頭を押さえてベッドの横を見ると鞄とプリントが置かれていた。
プリントを掴み見ると、入学式に配られたであろう注意事項や部活の事などが書かれていた。
岸くんが持ってきたのだろうと思いプリントを折り曲げて鞄の中に突っ込みベッドから降りる。
仕切りのカーテンを開けると、優しそうなメガネを掛けた40代の女性が椅子に座ってなにか書いていた。
きっと保健医なのだろう、カーテンの音に気付き顔を上げる。
「あら、もういいの?よく眠れた?」
「はい…あの、此処にもう一人背の小さい子が来たと思うんですが」
「岸くんね、さっきまでいたんだけどもう遅いから帰らせたわ、君も早く帰りなさい…家でゆっくりと休むのよ…誰かに迎えに来てもらう?」
「い、いえ…ありがとうございました」
両親は海外転勤だから迎えに来る人がいないから首を横に振り、先生に頭を下げてから保健室を出た。
連絡先を交換してないから明日直接岸くんにお礼を言おう、そう思い下駄箱に近付く。
下駄箱を開けると、靴の上に手紙が置いてあった。
普通の男子高校生ならラブレターだと思い浮かれるのだろう。
でも、俺はその白い封筒が不気味でしょうがなかった。
この学園に俺と同じ中学の生徒はいないし、入学式に出ていないから手紙なんて送るわけがない。
そこで思ったのは隣の下駄箱と間違ったという事だった。
封筒を取り、裏をひっくり返しても宛名も名前もないから分からない。
とりあえず手紙を出した人が気付くように背伸びをして下駄箱の上に置いた。
俺はその後何事もなかったかのように靴を履き歩き出した。
後ろから変な視線を感じて振り返るが、誰もいなかった。
それが不気味で気持ち悪くて、自然と足を早める。
一人暮らしだから余計不安に思った。
ーーー
聖帝学園から徒歩10分のところにある、ボロアパートが俺の一人暮らしの家だ。
二階建てで一階は大家が経営している喫茶店になっている。
大家はとても優しくて、俺が入居する時に「分からない事があったら何でも聞いて」と言ってくれた。
20代後半でまだ若く肩まで長い髪を後ろで緩く縛っている男性だ。
和音は不気味な視線のせいで、一人になるのが怖くて鞄の中から財布を取り出し中身を確認する。
まだ今月の仕送りのお金は残ってるから少し寄ろうかな。
上にボロアパートが付いてるなんて思わないほどお洒落な木製のドアを引いた。
チリンチリンと来客を知らせるベルが鳴る。
「いらっしゃいま…和音くんか、おかえり」
「た、ただいま帰りました…城戸 さん」
大家兼カフェの店長である城戸優恵 はニコリとカウンター越しに微笑む。
リラックス出来るゆったりしたBGMに落ち着いた店内で常連客も多い喫茶店のカウンターに座る。
ここがいつも俺が座る特等席のようなものだ。
メニューを広げて、今日は自炊が面倒だからカで喫茶店で夕食を食べようと考えていた。
城戸さんの料理はどれも美味しいがカレーとオムライスが特に美味しい。
メニューを閉じて城戸さんを見た。
「カレーとホットココアお願いします」
「はい」
城戸さんはココアを用意して、黒いココアの中に白いミルクを入れてスプーンでかき混ぜる。
昔からココアが好きで、今まで飲んだココアの中で城戸さんが作るココアが一番美味しいと入居した時に思っていた。
ココアを出されて、熱いからフーフーと冷ましていると食欲がそそられるカレーを目の前に出された。
両手を合わせていただきますをしてからスプーンでカレーを掬う。
一口食べるとピリッとした辛さの中に優しい甘さが広がり自然と頬が緩む。
城戸さんは途中だったグラス拭きをしている。
「今日は入学式だったんだよね、どうだったの?」
「…あ、はい…普通です」
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