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第27話

「凪沙ぁ〜、面白い冗談だな!真面目に考えてくれよ〜」 周りが笑っていた、俺にとっては冗談で済ますなら好都合だと早く帰りたい気持ちでいっぱいだった。 早く帰って、城戸さんのご飯が食べたい。 こんな地獄のような空間にいたくない。 風太だけが和音を心配したような顔を見せる。 しかしなかなか帰す気配がない。 凪沙だけが笑わず冷静な声で言った。 「だって俺が女の子とラブシーンして嫉妬しない子っているの?」 これは自惚れではなく、事実を話していた。 確かに片桐がヒロインでも嫉妬する子はいるだろう。 だったら相手が男なら嫉妬しないのではないかと凪沙は言う。 確かにそれもそうだと周りを丸め込んでいく。 これが凪沙の恐ろしい事だ、凪沙の可笑しな言葉に誰も一つも疑問に思わない…まるで凪沙に洗脳されたようで気持ち悪かった。 俺の意見は無視して話を進める。 「でも彼はないっしょ!だって…なんつーか、根暗だし…凪沙には合わないというか」 「…いいよ、じゃあ他の人に相手役頼んで」 凪沙は早々に福田に興味が失せて目を逸らす。 冷たく突き放されて福田は慌てて凪沙に謝っていた。 どうしても凪沙に主役をやってほしいのもあるだろうが、凪沙はカーストトップの人間だ。 そんな凪沙に嫌われでもしたら今までの交友関係が全て灰のように消し飛びそうで恐れていた。 凪沙はこのクラスで絶対的支配者なんだ。 冷静な顔をしてでも福田の顔は青白かった。 「ごめん凪沙!凪沙の言う通りにするから!だから機嫌直せよ」 「…機嫌?別に悪くないけど」 凪沙の言葉に福田はホッとして笑っていた。 凪沙は機嫌が悪くなったわけではない、どうでもいい人間に何を言われても心は微動だにしないから… ただ、和音と凪沙が似合わないと言われ福田を殺そうかなと無感情で思っただけだった。 結局俺の意見を聞かないまま勝手に劇のヒロインにされた。 勿論一週間後の舞台だ、すぐに帰れるわけもなく放課後になってもサイズを測ったりしていて教室から出る事は出来なかった。 ヒロインの役というと台詞も覚えなきゃならないしあがり症だから舞台に上がった瞬間頭が真っ白になるかもしれない。 それに女装をしなくてはならないだろう、そう思うだけで憂鬱だ。 人にベタベタ触られるのは怖いと思っていたら、メジャーを持つ子から受け取りいつの間にか凪沙がサイズを測る事になった。 さらに怖くてビクビク震えていたら凪沙に笑われて耳元で囁かれた。 「ももちゃんを他人に触らせるわけないでしょ?ほら、腕あげて」 凪沙の言葉は従わなくてはと思わせるなにかがあり、大人しく腕を上げた。 するっと変な風に腕を撫でられビクッと体が震えた。 腰にも手が触れ恥ずかしさで顔が赤くなる。 周りに変な風に見られてしまう、平常心でいないと… 凪沙は俺の反応を楽しんでいるように見えた。 ……趣味が悪い。 「うっ、うぅ…」 「細いね、毎日コンビニ弁当なんか食べてるから栄養偏るんだよ、俺が毎日お弁当作ってあげるね」 毎日の食事をなんで知ってるかなんてもう疑問に思わない…どうせ見ていたからの発言なのだろう。 凪沙の弁当なんてなにが入ってるか分からないから怖くて必死に首を横に振った。

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