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第26話

※桃宮和音視点 LHRで新入生歓迎会の説明がされた。 一週間後に行われるそうで、生徒達は何をするのか期待に満ちていた。 内容は毎年同じものをやってる生徒会のみ明かされていて他の学年の先輩達の出し物は分からない。 やるのは先輩達だけで俺達新入生は関係ないとボーっと何処を見るでもなくまっすぐ見つめていた。 ずっと首元から意識を離していたらだんだん気にならなくなっていた。 視線はずっと突き刺さっているけど… 「じゃあLHRはこれで終わり」 そう担任が締めようとしていたら、クラスの中でムードメーカーの男子が大きな声を出して手を上げた。 確か彼はいつも凪沙の周りにいた生徒の一人で外見も交友関係もチャラそうな生徒だ。 真逆の生徒だから俺とは全く関係ないが今手を上げたとなると、嫌な予感しかしない。 ムードメーカーは場を明るくするクラスでは必要不可欠な存在だと分かってる、けど時に関係ない相手まで巻き込むのは困る。 騒いだりする事が出来ないような俺みたいな性格が特に… 担任は面倒そうだが、一応話を聞く事にした。 「福田(ふくだ)くん、どうかした?」 「出し物やるの先輩達だけっすか?俺達もやりたい!」 福田の言葉に退屈そうだった生徒達が湧き上がった。 でも俺みたいに面倒だと思ってる人は嫌そうな顔をする。 出し物とか正直嫌だ、やりたくない…でもそれを言う勇気はない。 担任も面倒そうな顔をしているが、今更ダメと言えないほどクラスが騒ぎ湧き上がりため息を吐いた。 そこで諦めないでくれ、少ないけど嫌だって思ってる生徒もいるんだから…せめて任意とかにしてほしい。 俺の心の訴えが届く事はなかった。 「はぁ、一週間しかないんだぞ…何をする気だ?」 「大丈夫大丈夫!劇をやります!」 周りが再び湧き上がる。 劇って…何?俺は100%裏方だろうけど、 肉体労働は得意ではないから困る。 …無理にやらなくても、と風太の方をチラッと見ると一緒に盛り上がっていた。 この気持ちを共有してくれる人が居なくなった。 もう寝ようと顔を机に伏せた。 頭を掻き担任は困った顔をする。 「しかし劇は毎年生徒会がやる事になっててなぁ…」 「おっ!生徒会と戦いっすね!負けないぞ!」 「いやいや、君達に見せる劇だから」 担任の声は呆気なく掻き消された。 しかし衣装とか舞台とか台本とかどうするのだろうか。 いっぺんに一週間後揃えるのはかなり厳しいだろう。 担任はそれを予想して諦めてくれる事を祈っている。 派手な事をして校長に怒られるのはごめんだから… 俺は目を閉じたがうるさくて寝れそうになかった。 「…で、衣装とか舞台とか台本とか大丈夫なの?」 その言葉を待っていたかのようにニヤリと福田は笑った。 福田はチャラいがバカではない、考えなしで行動するわけじゃない。 周りを見渡して頷く。 この質問を待っていた。 クラス中が満足するであろう、脚本と役者はもう考えていた。 周りが期待に満ちた顔で福田の言葉を待っていた。 「衣装はコスプレショップで揃えて、舞台は生徒会の劇のを貸してもらって…台本は…郁美(いくみ)の小説をやろう!」 「わ、私…ですか?」 郁美と呼ばれた彼女はメガネに三つ編みの大人しい少女だ。 少女趣味の小説を書くのを得意としていて福田の幼馴染みでもある。 普段は俺同様目立ちたくない性格だが、自分の小説を誰かに演じてもらうのが夢だったのか遠慮の言葉を吐きながら満更でもなさそうだ。 次々と決める福田に担任はもう止める気もなく好きにすればと投げやりになっていった。 福田が仕切るなら福田の周りにいる派手な人達が中心でやるのだろう。 下手したら俺の出番はないかもと希望を抱いた。 「じゃあヒロインは片桐な」 片桐と呼ばれた少女は全然話を聞いてなかったのか名前を呼ばれてハッと気が付き福田を見た。 片桐(かたぎり)桃子(ももこ)、美しい茶髪が腰まで長く緩くウェーブしていてパーフェクトなほどの美少女だと男子が興奮気味に話していたのを聞いた事があった。 嫌味がない性格で女子の友達も多いが一部女子には完璧に嫌われている。 そりゃあそうだろう、凪沙の彼女ってだけで特別に思い嫉妬をするだろう…俺には一生理解出来ないだろう感情だ。 今だってイヤホンを耳に付けて何故かこちらをずっとガン見している凪沙に見とれていた片桐…凪沙が「ももちゃん」と呼ぶ子だ。 ああいう子にこそ相応しいあだ名だから、平凡男子にはもう呼ばないでくれと願っている。 どうせ聞く耳がないのだろうけど… 「じゃあヒロインの相手はやっぱり凪沙かな」 「……俺?」 俺から視線を外しイヤホンを付けたまま福田を見ていた。 あれはいったい何を聞いているのか、考えるだけでも恐ろしい。 福田はやはり主役は必ず凪沙だと考えていた。 周りもそれが当たり前だという顔をしていた。 …この学園はもう凪沙が支配したのかと恐ろしくなり、キュッと手を握り少し顔を上げていたがまた伏せた。 凪沙はんーっと考えてニコッと笑った。 「俺が出るならヒロインは俺が決めていいよね」 周りはざわざわと騒めいていた。 伏せている俺には見えないが、彼女より美少女が選ばれたのだろうか。 しかし男女共に不満な声が溢れている。 「え、誰?」とか聞こえてきて誰が選ばれたのか気になり顔を上げた。 …周りが俺を見ていた、怖くて顔が青くなる。 チラッと凪沙を見ると凪沙はまっすぐ俺を指差していた。 な、んで…こんな…事… まさか凪沙が俺をヒロインに指名するなんて思わず驚いていた。 無理だ、ヒロインとか…それ以前に凪沙を目の前にして冷静でいられる自信なんてない。 怖い怖い怖い… 皆同じ事を思っているのか福田は苦笑いしていた。

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