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第三章・4

「どうかしたのか。また、吐き気が?」 「いいえ。よく眠れましたし、お食事も美味しかったです」  迷っている風の亜希だったが、やがて重い口を開いた。 「あの。アフターピルって、薬局で売っていますか?」  亜希は、優しい啓に知られたくなかったのだ。  自分が、体内射精まで客に許して、お金を稼いだことを。  だが、放置しておくわけにはいかなかった。  望まない妊娠を、見て見ぬふりをするわけには、いかなかった。 「アフターピルは、市販されていないよ」  啓は察した。  昨夜、あのホテルで亜希がなぜ青い顔をしていたのか。  おそらく、客に体を許していたに違いない。  そして、スキン無しでの性交をしたのだ。 (感染症の予防のためにも、避妊具は必ず着けるべきなのだが)  しかし、目の前で悲しそうな顔をしている少年に、懇々と諭すことはためらわれた。  それは、後ほどゆっくりと。  今まさに迫っている彼の不安と恐怖を、拭い去ってあげることが先決だ。 「歯を磨いて、支度をしなさい。私が、何とかしてあげよう」 「いいんですか?」 「早くしないと、手遅れになるぞ」 「は、はい!」  亜希は、急いで椅子から立ち上がった。

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