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第十章・6

「ひどい。話はこれからだ、って時に電話を切るなんて」  スマホを手に、利実は頬を膨らませていた。 『二度と、こんな真似をしないでくれ!』  啓の言葉が、思い出される。 「その気になれば、怒れるんだ」  初めての彼の魅力に、利実は打たれていた。 「妬いてくれた? って、訊きたかったんだけどな」  自分のベッドで、婚約者が他の男に抱かれる。  そんな屈辱的な立場に啓を置いておきながら、利実は自分のことしか考えていなかった。 「ああ。でも何か、前より啓さんのこと、好きになれたかも」  人間的な感情を、あらわにした啓。  そんな彼に、利実はときめいていた。  親同士の決めた、愛のない結婚。  こう考えているのは、啓だけではなかった。  利実もまた、政略結婚の駒に過ぎないのだ。  だが、この駒は含み笑いをし、次の悪戯を考え始めていた。  とても危険な、駒だった。

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