72 / 146
第十三章・3
身を固くする亜希に、啓はいたずらっぽく話しかけた。
「実は彼には、とても手こずってね」
「重篤だったんですか?」
「いや。私がまだまだ若すぎて、信用できない、と……」
そこに、大きな湯のみでお茶が出された。
「先生。もう、勘弁してくださいよ。先生がいなけりゃ、私はあのまま死んでたんですから」
笑う啓と松前だったが、亜希はしげしげと、この若き外科医を眺めた。
(啓さん、すごく優秀なお医者さんなんだ)
そして、救った患者と笑い合っている。
(僕も、こんな風になれたらいいな)
啓が目指すのは、内科医だ。
だが、啓を手本にしたいところは多かった。
研究熱心なところや、ていねいな経過観察をするところ。
呼び出しがあれば、たとえ夜中でも患者の元へ走るところ。
(エッチしてる最中にコールがあった時は、焦ったけど……)
「亜希。何を食べたい?」
「え!? あ、はい!」
亜希は慌てて、メニューを開いた。
ともだちにシェアしよう!