114 / 146

第ニ十章・5

「いやだなぁ。僕、どこも悪くありませんよ?」 「念のためだ。軽い気持ちで、受けてくれ」 「この日は、最後の模試があるんです」 「健康診断の方が、重要だ」  啓と亜希は、マンションでこんな会話を交わしていた。  医師志望でありながら、亜希は病院にかかることがあまり好きではない。 「もし病気だったら、どうしよう、って。怖くなるんです」 「その時は、私が責任を持って治してやるから」  それほど言うなら、と亜希は健康診断をOKした。  診断は、三日後。  それまでセックスはしない、と啓はベッドの中で宣誓した。 「だ、ダメなんですか?」 「激しい運動は、体に毒だ」 「激しい運動……」  確かに、激しい。  亜希は諦めて、瞼を閉じた。 「その代わり」  啓が、亜希を優しく両腕で包んだ。 「こうやって、抱いていてあげるから」  啓の温かさを感じながら、亜希は眠った。  この幸せが、永遠に続くと信じていた。

ともだちにシェアしよう!