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第二十一章・5

「そう来ると思った。お堅い啓さんの病院らしいね!」  利実は鼻を鳴らし、じゃあ、と別の包みを取り出した。  それは、素敵な色がいっぱい詰まった、水彩色鉛筆だった。 「リンゴ、描いてみたら?」 「絵は、苦手です」 「これを機に、得意になろうよ」  恐る恐る絵筆を手にした亜希だったが、始めてみると楽しい。  次第に夢中になっていく亜希を、少し離れたところで利実は見守った。 (啓さん、亜希くんに病気のこと打ち明けてないんだね)  それは、おそらく。 (多分、まだ治療法が定まってないからなんだ)  胸への圧迫感を訴えていた、亜希。  そして、ベッドサイドに置かれた薬の中には、ニトログリセリンがある。  これは、発作の応急処置で飲む薬だ。 (やっぱり、亜希くんは心筋症なんだ……!)  それは利実にとっても、辛い現実だった。

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