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第二十一章・6

 啓は亜希のための調べものを一旦やめて、デスクを離れた。  頭を抱えて考え込んでいても、仕方がない。  まずは、亜希の顔を見よう。 (そして、容体を把握するんだ)  長く清潔な回廊を歩きながら、啓は少しでも前向きになろうとしていた。  心の隅に頭をもたげてきた恐怖と、戦っていた。  その恐怖とは。 (亜希は、あとどのくらい持つんだ? あとどのくらい生きられるんだ?)  知らず知らずのうちに、亜希の余命を計算に入れるようになってきた自分が、ここにいる。  振り払っても振り払ってもぬぐえない、恐怖。  いつしか表情も、険しくなってしまう。  亜希の病室に入る前に、啓は無理に笑顔を作った。  そしてドアをノックし、入室した。

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