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第10話

最後は抱かなかった。 指1本ふれなかった。 切なくベータを見つめただけだった。 「もう会えないんだ」 でも泣きながら言った。 番の前でさえ、そんな姿は見せたことがない。 ベータは悲しそうな顔をした。 それはアルファが泣いてることにだということはわかってた。 別れをずっと覚悟していたのだと分かった。 愛してると言いたくて、でも飲み込んだ。 諦めることを知らないアルファが生まれて初めて諦めた。 好きになっていた。 本能ではなく快楽ではなく。 人として。 恋だった。 奪い支配するためではない。 間違った始まり方だった。 始めてはいけない恋だった。 だから終わらせなければならない。 「君を諦める」 この言葉だけが全てだった。 オメガから離れられない。 本能が許さない。 アレは自分のモノだ。 誰かに渡してたまるものか。 でも。 ベータは違った。 初めて恋した人だった。 「うん」 ベータは笑って、でもポロポロ涙をながした。 わかってない、そう思った。 どれほど愛してるいるか。 番のオメガがいないのなら、アルファは生涯欲望を満足させられなくてもこのベータを選んだだろう。 そして、自分のモノではなく、人として愛しただろう。 だが無理だ。 無理なのは間違っているからだ。 オメガは最初からいたのだから、この恋を始めてしまうことが間違っていた。 愛してることさえ伝えられないのも、理解していた。 ベータは知らない。 どれほどアルファがベータを愛してるいるか。 だからてばなす。 離れる。 逃がしてあげる。 こんな酷い男から。 「ありがとう」 ベータはそれでも微笑んだ。 涙を拭い抱きしめたかった。 だがダメだ。 自分には番がいて、手放せない。 本能が許さない。 絶対に。 酷い男だ 酷い男だから、与えられる1番良いものが別れでしかなかった。 さよならは言えなかった。 背中を向けて走るベータを見つめるだけで。 泣き続けていた。 自分がアルファであることが生まれて初めて嫌だった。 ベータに生まれて。 彼と出会いたかった。 恋は終わった。 終わってしまった。 アルファは涙を拭った。 仕方ない。 仕方ない。 アルファとして生きるしかない。 アルファはアルファでしかない。 またたまにベータで遊び、番に自分の欲望をぶつけるあの毎日に戻るだけだ。 アルファらしい、毎日。 アルファとして生きる。 競争と勝利と美しいオメガ。 称えられ羨ましがられるアルファとして。 でも。 でも。 今だけは。 アルファじゃなかった世界を思い描いた。 ベータと幸せになれたかもしれない世界を。 ありえないから、それは美しい夢だった おわり

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