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第1話

ここは何処だ? 僕はベッドの中にいた。 蛍光灯が眩しくて、目を細める。 「っつ!っ痛、、、」 起き上がろうとした途端、僕の左胸に激痛が走る。 左腕まで痺れが走り、どうも体を起こすことは不可能だった。 不意にカーテンが引かれ、その淵に白衣を着た黒髪の男性が視界に入った。 「なんだ。もう起きたのか。」 そう一言言うと、その人は左手の腕時計を確認する。 「まだ、30分も経ってないぞ。」 「あの、ここは何処ですか?」 僕は咄嗟に質問をする。 体が思うように動かないので、仕切られたカーテン以外何も視界に入らない。 白衣の男を除いて。 「安心しろ。ここは保健室だ。監察官も追い払ったから暫くは大丈夫だろう。」 「監察官??あの、胸が痛くて・・・病院に、母に連絡して貰えましたか?」 「いいや?」 ぶっきらぼうにそう言うと、白衣の男性は片手にバインダーを持ち、何かを走り書きしている。 僕は痛くて苦しくて、朦朧とする思考で訴える。 「病院に、行きたいのですが・・・。」 「それはならないな。」 こんなに必死に訴えているのに、あっさりと拒否の言葉を投げられる。 「なぜ・・・。」 「もしかして君、覚えてないのか?」 「・・・なにを。」 「君のその体の不調は、俺がやったことだ。」 白衣の男性はボールペンを持ったまま髪をかきあげると、参ったなと一言付け加える。 「君は何処から覚えているんだ?」 「先生、僕は」 条件反射のように耳慣れた名詞を呟くと、あれ?と一瞬思考が停止する。 「先生。先生は太宰先生ですよね?保険室の。」 「そうだが?」 顔色一つ変えず、先生は当然のように返事を返す。 その様子をじっと見つめていると、蛍光灯に反射した眼鏡の奥の瞳の色を僅かながら捉えることが出来た。 その瞬間、記憶が鮮やかに、より濃く鮮明に蘇ってきた。 それと同時に恐怖が胸を支配する。 心臓がズキズキと痛み、全身に痺れが走った。 「吸血鬼」 僕はそれだけ言葉を絞り出すと、息を吐く。 「そうだ。」 体が強張り緊張が走る。 心臓がどくんどくんと脈打つのに合わせて、全身に痛みが走り抜けていく。 「思い出したのか?」 口の端を引きつりながら、太宰先生は唸った。

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