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1.ある雨の日に

 土砂降りの雨が降っていた。  小さな薬屋を営む羽白(はしろ)は、客足が少なくなったことを確認すると、早めに店仕舞いをした。ここが、自宅兼店舗で本当に良かった。ぐずぐずと泣き続ける空の雨足は今にも強まって、夜にはきっと嵐になるだろう。 「さて、と」  ここ、シロフォンの町では熱風邪が大流行中。風邪薬の需要はいつもの三倍ほどで、そろそろ原料である薬草が切れてしまいそうだ。 「あと二、うーん。三回分くらいかな」  瓶の中のそれを確かめ、なるべく早く雨が上がってくれることを祈る。熱風邪に効く薬草は珍しい種類のものではないが、森の中にしか生えていない。そのうえ、雨上がりは霧で足元が不安定だし、たまに野生の熊も出る。  羽白は、今日の営業で散らかったままのテーブルを片付け始めた。ああ、そうだ。換気の為に開け放していた窓も、そろそろ閉めなきゃ。 「……ん?」  いつもの景色にふと違和感を覚え、窓に手を掛けたまま外を見遣る。いつもは賑わう大通りも、嵐の予報を受けてか人の気配はない。──そこでぐったりと倒れる、ただ一人を除いて。 「どうしたんだろ? い、いや、助けなきゃ!」  羽白は傘もささずに裏口から店を飛び出し、正面玄関に面した大通りへと走る。そう大きくはない店舗をぐるりと回り込めば、自身が世話をしている小さな畑がちらりと見えた。大切に育てたプラムが赤い実をつけ、生き生きと水をはじいている。いや、今はそんなことどうでもよくて。  羽白は、道の端で堂々と倒れたその少年に駆け寄った。身体を抱き起こせば、ぐったりと力の抜けた四肢が垂れる。意識は無いようだが、随分と苦しそうだ。雨で張り付いた長い赤髪を避けて額に触れると、沸騰しそうなほどに熱かった。 「すごい熱だ……」  考えるよりも、身体が先に動いた。意識のない男の人を肩に抱えるというのは、なかなか大変だが仕方ない。羽白は彼を、半ば引き摺るようにして、店の中へと戻ることにした。

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