2 / 7

響也side*1

   初めて会った日。  楓から目が離せなかった。  父さんが、再婚を意識してると言い出した時。  別にいいんじゃない、と言った。その後でオレの一つ上の息子が居ると聞いた。  ……最悪。  今更、一つ上の兄が出来るなんて、冗談じゃねえっつの。  最初はそう思ったが、ふと、途中で何とか考え直した。  大学に入ったら一人暮らしをしたいなと思っていたし、我慢するのは二年ちょい。あまり家事の出来ない父さんを一人にしなくて済むから、家を出るのも気楽だ。  ……我慢、するか。  そう思って、再婚を前向きに受け止めたら、一度会うことになった。  約束した日、待ち合せ場所に向かう途中。 「響也、ボタン」  父さんに開けたシャツの襟もとを突っ込まれるが「これでいいよ」と答えた。ピアスも、普段学校でつけるより、目立つのにした。  今更兄貴とか呼べるはずもないし、要らない。  楓という名前らしいから、もう呼び捨てで行く。最初が肝心。  周りの友達も皆、同じようなことを言ってて、最大限に柄の悪い態度で行くことに決めていた。  間違っても可愛い弟なんて立場に陥らないように。……まあオレ、そんなタイプじゃねえけど、念のため。  遠くから見た、母になるかもしれない人は、線の細い綺麗めな感じ。  隣に立ってる楓は――――……こっちも、遠目では、細めのイケメンぽいな、という印象。 「――――……」  最初に父さんを見て軽く挨拶した楓は、すぐに、オレを見た。  ――――……少し、オレより、背は低い。  目が合った瞬間。  意味が分からない。  ドクン、と心臓が、大きく、揺れた。  は?  ――――……何。  目が離せない。  楓も、目を、外さない。  男になんか興味はない。  ――――……ないはずだった。だから最初は、意味が分からなかった。  その後の食事――――……オレと楓が向かい合わせ。  目に入ってくる、綺麗な、繊細そうな指とか。父さんに話しかけられて、何だか照れくさそうに話してる顔とか。  オレを見ると、息をのむみたいに、瞬きの増える、綺麗な、瞳とか。  押し倒して――――……オレのものにしたい。  そんな、強烈な欲を、会ったばかりの兄弟になるかもしれない男に抱くなんて。  正直、焦った。もう、確実にそういう感情だと分かってすらも、意味が分からない。  初めて楓と会った日から。  どんな女とシていても、楓が浮かぶ。あいつは、どんな顔をするだろう。どんな声を、出すだろう。  結局その内、誰の誘いにも乗るのはやめた。    何度楓に会っても、その感覚は、消えるどころか、増すばかり。  内心ひどく戸惑ってはいたけれど、結婚に反対はしなかったのでスムーズに進み、父さんと住んでた一軒家に、母と楓が入ってきた。  思春期の男同士。  父さん達は、無理に仲良くさせようとはしなかった。  何となく四人で食事をする時に、絡めて話を振ってくるだけ。そういう時は適当に会話をした。  部屋は別だし、高校も違う。お互い部活や塾で、そんなには会わない。  でもたまに、洗面所やリビングで、二人になるタイミングがあって。  楓に、触れて、キスしたらどうなるんだろうと、ずっと思っていた。  楓も、オレを意識してる。それは、確かな気がしていた。  適当に発散してたのをやめたせいもあって、触りたい気持ちがどんどん高まる。  ――――……それでも他で発散する気には、もうならなかった。

ともだちにシェアしよう!