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第13話 蒼司の知人(2)

僕は当然ながら、彼が載っている雑誌は全て購入していた。ある女性誌の着回しコーデ企画で、このモデルさんの彼氏役として蒼司が出ていたのだ。僕はあくまでも遠くから見守る派でありガチ恋勢ではないので、カップル設定であっても楽しく読んでいた。 (雑誌でも可愛かったけど、実物はめちゃくちゃキラキラしてるし顔小さ~! あんまり大きくない僕の手でも包み込めそう。しかも僕より多分背が高いのに足の長さやばくない?) まるで雑誌からそのまま抜け出したかのような二人につい見とれてしまう。すると、そのモデルは「テーブルくっつけちゃお。アヤカお願い」と後ろに佇んでいたもう一人の女性に言った。彼女と比較すると地味だけど、整った顔立ちの大人しそうな黒髪ボブの女の子が黙って隣のテーブルを僕たちのテーブルにくっつけた。 すると蒼司が無表情に言う。 「勝手なことすんなよ。こいつ人見知りなんだ。今日は遠慮してくれ」 「え?」 彼女はムッとして低い声を出し、僕の方を見た。 (え!? 人見知りって、もしかして僕――?) 僕は焦って言う。 「あ、い、いえ、全然気にしないでください! ぼぼぼ僕は黙って静かにしてますから……」 (ああああ、気持ち悪い感じでどもっちゃった) 「いいのか? 無理すんなよ」 「うん、大丈夫。あ、なんなら僕が別の席に……」 「バカなこと言うな」 慌てて席を立とうとしたら、洋服を引っ張られた。 彼女の睨むような視線はちょっと痛かったけど、結局4人で一緒に席に着いた。モデルさんの名前は、会話の中でアンジュだとわかった。そして、もう一人の子は僕と同じくほぼ無言で黙々と注文したものを食べていた。 「今日はいつものアルファ女子は一緒じゃないんだぁ?」 「ああ、都合が悪くて来られなかった」 「ふーん、それでその陰キャっぽいのがカメラマンなの」 僕が陰キャなのは事実なので特になんとも思わなかった。気になったのは、いつもの……という話の方だ。 (アルファの女性がいつもは写真を撮っていたんだ。知らなかった、もしかして蒼司くんの恋人とか?) しかしそれを聞いた蒼司は機嫌悪そうに言い返した。 「なぁ、嫌味言うためにここに座ったのか? 飯がまずくなるからどっかいけよ」 「え? そんなことないよぉ。怖い顔しないでよ」 彼女はむすっとした蒼司をなだめようとして別の話をし始めた。モデル同士の内輪な内容で、僕にはわからないしなんとなく気まずくて「トイレに行ってくるね」と席を立った。 手を洗いながらため息をつく。 「はぁ……。さっきのプラネタリウムは良かったけど、やっぱり初対面の人と食事ってなるときついな」 別に「陰キャ」と言われたことを気にしているわけではなかった。だけど、蒼司の不機嫌そうな顔を思い出して憂鬱になる。きっと、モデル仲間に僕みたいのを連れてるところを見られて嫌だったんだろう。いくら兄弟だからといっても、僕のせいで蒼司が不快な気分になってるのだとしたら申し訳なかった。 「僕もアンジュちゃんみたいなキラキラな見た目だったら、誰にも文句言われなくて済むんだけどなぁ……」 鏡に映る自分の、二重の幅が広くて眠そうな目や白いだけで不健康そうな顔を見た。無理やり笑顔を作ってみても、垢抜けなさはどうしよもなかった。 しばらく時間をつぶしてからトイレを出て席に戻ろうとしたら、廊下でアンジュちゃんと出くわした。 (あれ、アンジュちゃんもトイレか) 「ちょっと、あんた」 目礼してすれ違おうとしたら引き止められた。 「あ――はい、僕ですか?」 「その匂い、オメガでしょ?」 「……はぁ。そうですけど……」 オメガ同士でも、なんとなく相手の匂いがわかる。あえて聞きはしなかったけど多分アンジュも同じくオメガだ。 「わざとそうやってフェロモンちょい出ししてAoのこと誘惑しようとすんのやめてくれる? キモいんだよ」 「へ?」 「その見た目でAoがあんたのことかばうとかどう考えてもおかしいでしょ」 (フェロモンで誘惑……?) 「え、いや……そういうわけじゃ……」 「あんたのせいでAoに睨まれたんだよ? イラつく、嫌われたらどうしてくれんの?」 蒼司が僕をかばったのは、フェロモンのせいではなく兄弟として気を遣ってくれているからだ。とはいえ、彼女が僕のフェロモンに気づいたということは出かける前に飲んだ抑制剤の効果が切れてきたのかもしれない。 「いつものアルファ女ならまだしも、あんたみたいのがAoの近くにいるの目障(めざわ)り。あんた三十歳超えてるんだって? 陰キャの年増オメガは人前に出てくんなよ。Aoと並んで自分が釣り合ってないのわかんない?」 彼女は僕を見下ろした。やはり彼女の方が背が高い。 僕はなんて返していいかわからなかった。もちろん釣り合ってるなんて思っていないし、兄弟なのだと言えば彼女も納得してくれるとは思う。だけど蒼司が親の再婚を公表していないのだとしたら、勝手に義兄だと言うわけにもいかない。 「Aoのそばにいていいオメガはあたしレベルの人間くらいだから。あんた程度のオメガがフェロモン武器にしていい気になんないで」 そう言って彼女は女子トイレに入っていった。 (こっわ~! いやいやいや、自分的にもAoのそばにいていいだなんて微塵(みじん)も思ってないし……) 同じようなことは昔も言われたことがあった。僕のフェロモンのせいで、優秀なアルファの男女が僕を取り囲んでいた。それを面白く思わないオメガやベータの子たちは「なんであんな地味な奴が?」と嫌味を言ってきたものだ。 「この感じ……ちょっと懐かしいかも」 こういうことを言われたのは僕が久々に外に出て人と関わったせいだ。ある意味、自立してちゃんと人間関係を築くために必要な第一歩なのかもしれない。 (それにしても、アンジュちゃんってもしかしてAoのことが好きなのかなぁ)

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