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第17話 自分のお気に入りをけなされると腹が立つ【蒼司視点】
義兄と二人暮らしを始めた。
義父から頼まれたように、彼の独り立ちをサポートするためだ。そうすれば義兄は一人で外に出掛けるようになり、運良く誰かと結婚するかもしれない。
そうなれば、俺はお役御免。親の言いなりにならず、自由の身でいられるってわけだ。
なるべく早めに外界に慣れてもらおうと、俺の撮影に付き合ってもらうことにした。いつも撮影をやってくれるアルファの菜々 には今回別のカメラマンを頼んだといって断わった。
一応義兄に具合悪くなられては困るので、まずは暗くて人目が気にならないプラネタリウムを選んだ。それで大丈夫そうなら、カフェへ。そこも大丈夫なら、最後は人出の多い公園で撮影をしようと思っていた。
まさかカフェでアンジュに会うとは――誤算だった。
あいつは事務所の後輩で、年が近い。そのせいもあってたまにカップル設定の撮影で組まされることがある。
俺はああいうギラついた美人オメガが苦手で、そういうのに限って俺に近寄って来ようとするから厄介だった。とくにあいつはアルファ並に上昇志向があって、プライドも高い。しかもずる賢くて困る。
以前事務所の飲み会で酔っ払ったアンジュを「帰る方向が一緒だから送ってやって」と任されたことがあった。
タクシーに乗り、彼女のことをマンションの前で降ろして俺はそのまま自宅へ帰ろうとしていた。しかし、アンジュが「歩けない~」とまとわりついてきた。運転手は「吐かれたら困るんで降りてもらえます?」と迷惑そうに言った。
俺は仕方なく彼女の部屋まで肩を貸した。玄関に放り投げて帰ろうとしたが、アンジュは俺に抱きついてきた。
「ここまで来ておいて、何もしないなんて言わないよね?」
そう言って笑う彼女に対して怒りがこみ上げた。酔って歩けないと言ったのは演技だったのだ。
俺を誘惑しようとして身体を絡ませてきた彼女からは、酷い匂いが漂ってきた。俺の鼻は途端にムズムズしてきて、くしゃみが止まらなくなった。体に合わないタイプのフェロモンだと特に症状が激しい。彼女のは今まで嗅いだ中でも最悪クラスの相性だった。
俺は彼女を振り払って外へ出た。追いかけて来ようとしたアンジュに俺は「ついてきたら二度と口を利かない。このことは黙っててやるから大人しく部屋に戻れ」と言ってその場を後にした。
そんな彼女が、蓉平と仲良くできるとは思えない。俺は席を離そうとしたけど蓉平は気を遣って彼女との相席を許した。するとアンジュはいきなり「その陰キャっぽいのがカメラマンなの」と蓉平に向かって言った。
それを聞いて俺は無性に腹が立った。
(ああ? 蓉平が俺の連れだとわかっててディスってんのか)
確かに蓉平は陰キャもいいところだ。
eagle0908とかいうアカウントから俺にDMを寄越す、とある変なオッサンがいた。大体が「食事を奢りたい」とか、「遠くから見守りたい」という内容で、どんな奴だ? とアカウントをチェックしてみた。
するとそいつはペーパークラフトにハマってるらしく、乗り物や建物などを紙で作ってはその写真を投稿している人物だった。俺はもちろん気味が悪くなり返信などしなかった。
それが蓉平だったとわかったときは驚いた。実物はオッサンどころか童顔のフェロモン体質オメガで、まあまあ俺好みのルックスだったからだ。
そんなわけで、彼の中身は陰キャで間違いない。しかしそれをいじって良いのは俺だけであり、他人からどうこう言われる筋合いはない。
俺はアンジュに「嫌味言うためにここに座ったなら飯がまずくなるからどっかいけ」と言ってやった。
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