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第22話 嫌われるほど気持ちいい(1)

蒼司に呆れたような目で見下ろされ、悦びに震えながら僕は言う。 「あ、蒼司くん……僕もう、我慢できない……」 「――どうしたいんだ?」 蒼司が冷たく聞いてくる。 「……気持ち良くなりたい……」 「俺に抱かれたいんだろ? そう言えよ」 「……そ、それはダメ」 「あ?」 (本当はしてほしいけど、さすがにそれはダメだ――) 「最後まではしないで……」 「ふん、俺に奉仕させようっていうのか? 温室育ちは言うことが違うな」 「あ……ち、ちがう。そんなんじゃ――」 「まあいい。お父さんにお前の面倒を見ろと頼まれてるからな。言われた通り、見ててやるよ」 (え――?) 蒼司はそう言うとデスクチェアをベッドのすぐ横に引っ張ってきてそこへ座った。 「ほら、近くに居てやるから俺の匂い嗅ぎながら自分で好きなように気持ちよくなったら良い」 「そ、そんな――……そんなこと、できないよ!」 「ん? なんだ、恥ずかしがってるのか? さっきは気持ち良さそうにしてたじゃないか。仕方ないな、ちょっと待ってろ」 部屋を出て行ったと思ったら彼はすぐに戻ってきた。 「ほら、これ付けてやるよ」 彼が持ってきたのは黒いアイマスクだった。 「お前の好きなアルファの匂いがするだろ」と彼は僕の視界を塞いだ。真っ暗で何も見えなくなる。 「あ……なんで……」 「これ付けると俺を気にせず集中できるだろう?」 たしかに、視覚からの情報が無くなってより一層彼のフェロモンが鮮やかに感じられる。今はまだ性的な感じじゃない、落ち着きのあるウッディ系の香りだ。 「恥ずかしがることはない。発情期なんだから。健康なオメガなら皆同じようになるだろ? 俺は頼まれてお前の体調を管理してるだけだ。心配しなくても、お前のことを襲ったりしない」 「体調……管理……?」 「ああ、そうだ。俺のことはルームフレグランスとでも思って安心して気持ち良くなればいい」 (いいのかな……でも、蒼司くんがいいって言うなら……) 目隠しをされ、恥ずかしい姿を彼に見られると思うと心臓が激しく脈打ち、全身を勢いよく血が駆け巡る。僕は黙って頷き、自分の体を触り始めた。 恐る恐る茎を握り、手を動かす。憧れの相手に見られている羞恥心と、嫌われていることへの安心感と、未知の快楽への期待で胸の中がぐちゃぐちゃになっていた。 「ん……っ」 (義弟の前でこんなことしちゃだめなのに……。でも、すごくきもちいい……) 目隠しをしたことで、理性よりも段々性欲の方が勝ってくる。僕は考えるのをやめ、夢中で快感に浸った。 「あっ……ふぅっ、んんっ……」 「すごい匂いだな。なぁ、後ろはいじらないのか? 何か入れてほしくてヒクついてるぞ」 「はぁ……はぁ……う……ん」 蒼司に言われて僕は指を後ろの窪みへとゆっくりと挿入する。 (こんなところ、誰にも見せたことないのに……。まさかあのAoに見られるなんて――) 「あっ……ん」 「気持ちいいのか?」 「きもちいいっ……み、見てる……?」 「ああ。全部丸見えだ。義弟に見られて興奮するなんて、思った以上の変態だな」 「いや……あぁっ」 (恥ずかしい……でも、僕のこと嫌ってる人に見られながらするの、気持ちいい……もっとなじって) 指を出し入れするが、相変わらず僕の指では奥の方に届かない。 「あぅ……っふ……んっ」 「そんな細い指一本で満足なのか?」 「あっ!」 蒼司の声が思いのほか近くで聞こえて僕はビクッと体を震わせた。どうやら蒼司が椅子から立ち上がって、横から僕を見下ろしているらしい。 「もっと……太いの、欲しい……」 「なんかおもちゃないの?」 「そういうのは……使ったこと無い」 「ふーん、お堅いね」 本当にお堅いなら、義弟の前でこんな恥ずかしいことなんてできない。 「じゃあ俺の指を貸してやろうか?」 「えっ……? でも……」 蒼司が僕の手を掴み、二人の手のひら同士を合わせた。目には見えないが、感触だけでもかなり大きさの差を感じる。 「ほら。俺の手の方がデカいだろ? これでしたら気持ちいいんじゃない?」 「そんな……だめ……」 「だめじゃないだろ? ほら、こんなふうに俺の指で触って欲しくないのか?」 そう言って蒼司は僕の唇に触れた。そのまま下唇を押し下げて、こじ開けるようにして彼の指が口の中に入ってくる。 「ん……っ」 「どうだ? お前の指より太いし、長いだろう?」 口の中にゆっくりと指が差し込まれる。人にこんなことされたことがなくて、僕はどうしていいかわからなかった。 「舐めろよ」 「んぅ……」 言われるがままに僕は彼の節くれ立った指に舌を這わせた。自分の体の中に、他人の体の一部が入っている。目が見えないから余計にその舌触りが生々しく感じられた。 「ほら。これを下の口でも味わってみたくないか?」 (蒼司くんの指……欲しい……) 「うぅっ……んぅ……」 僕は必死で頷いた。 すると蒼司は指を抜き取って僕をベッドに仰向けに寝かせた。彼が覆いかぶさってきたのを気配で感じる。 「怖くないか?」 「うん。蒼司くんだから怖くない……」 僕の答えを聞いて彼の指が双丘の間に触れた。徐々にそれが中に押し入ってくる。 「力抜けよ」 「ぅう……っ」 僕は思わずシーツを握りしめた。指は自分でするよりもっと深い所に届いた。 「さあ、どうだ?」 「はぁっ……ああ、僕のより長くてゴツゴツしてる……」 「よかったな。じゃあ、あとは好きに動いて」 「え……」 蒼司は指の付け根まで僕の中に入れただけで、手を止めてしまった。僕に自分で動けと言う。恥ずかしいけど、もうどうにも我慢できず僕は腰をゆっくりと前後させた。 「あっあっ……いいっ」 蒼司が少し笑ったのが息遣いでわかった。もう、笑われようがどうしようが止められないくらいに僕は興奮していた。手を伸ばして彼の首にしがみつくと、雄のフェロモンが鼻をついた。 (良い匂い……さっきより、甘い……) 「んぁ……っあぁ……」 無我夢中で彼の手に恥ずかしい所を擦り付ける。目が見えていたらとてもじゃないけどこんな真似はできなかっただろう。 「ここばっかり擦ってるな。ここがいいの?」 「ひぃっ――!」 彼が少し関節を曲げ、僕の動きに合わせて中で指を動かし始めた。気持ちよすぎて頭がどうにかなりそうだった。 「きもちいいっ! ぁあ……蒼司くん、きもちぃっ……もっと、もっとして」 「はは、エッロ。俺の指そんなに美味しい? すげー眺めだな」 耳元で言われて益々体が熱くなる。ぐちゅぐちゅと指が出し入れされる音を聞きながら、僕は限界を悟った。 「んっ、もうイきそう……! 蒼司くん、キスして……キスしたい……キス、お願い……」 それを聞いた彼はため息をつきながらも僕の唇を塞いでくれた。 「んん……ぅ」 唇を吸われたかと思うと、すぐさま彼の舌が口の中に入り込んできた。咄嗟に鼻から息を吸い込むと、彼のフェロモンが甘く香った。 (もうだめ、こんなの良すぎて無理……) 「んっ……ふぅっ……!」 口の中と下の口を同時に塞がれ、苦しいくらいの快感の中で僕は絶頂を迎えた。 びくびくと痙攣する僕の体を押さえつけるように、彼は唇を離さなかった。僕は気持ち良さに酔い、無意識の内に彼の体に両足を巻き付けていた。 (あ……蒼司くんの……硬くなってる……)

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