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第14話

 思いとは裏腹に視線はしっかりと俺を捕え、再び圭が口を開く。 「じゃあ、誰が吸ってたんだよ」  煙草の匂いにこんなに執着するとは意外で、取り付く暇もない。それでも脳みそをフル回転させ、当たり障りない返事をした。 「商談の相手がヘビースモーカーで、同じ室内にいたから匂いが移ったんだと……思う」  動揺を隠しながら作り笑いで答えると、まだ納得してないようだった。  確かに東雲も煙草を吸う。けれど、俺と会う時は殆ど吸っているところを見ない。会えば商談と呼べる会話よりも先に、口を塞がれキスをされる。鼻に抜けるウッド系の香水と混ざる体臭は独特で最初はそれが苦手で、キスをする度に吐き気がした。なのに、慣れとは恐ろしいものだ。今では気になることもなく、当たり前のように受け入れ舌を絡められる。数分前にされたディープキスを思い出し、必死に脳内から排除しようとした矢先、気づけば圭の顔が目の前に迫っていた。 「……兄貴?」  手首はそのままに、身体を曲げて距離を詰めてくる。 「な、なんでもない」  なのに、何かを諦めたような素振りで一度詰まったはずの距離は一瞬で離れた。 「ふーん。ま、いいけど……俺、煙草の匂い嫌いだから」  拒絶するように睨まれ、手首もパッと離される。 「次から……気を付ける……」  冷ややかな目で淡々と告げられ、嫌われたくない一心でそれだけを言うのが精一杯だった。 「今夜は兄貴と一緒に実家に帰るから、外で待ってて」 「え……」  まさか一緒に帰るなんて思ってない俺は、思わず腑抜けの声を出してしまった。 「なんだよ、嫌なのかよ」 「ち、違う。仕事はいいのか?」 「あぁ。忙しいのは外商課だけ。それに、大方終わったようなもんだから」  そうかと口にしながら、内心は複雑だ。シャワーを浴びたとはいえ、東雲に抱かれ跡をつけられたキスマークはしっかりと残ったままだ。けれど、圭の前で服を脱ぐことはないだろうと軽く考えていた俺は、小さく頷き、圭と一度別れた。

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