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第13話
「……っ、煙草の味がするね」
「すみません……っ……ん、ふ……」
「優等生のキミがっ……煙草を吸う姿は、いつ見ても興奮する」
「……仕立ての目処がつきましたらっ……」
東雲の性癖がどこまでも変態で嫌気がさした俺は、話を無理矢理変えようとした。なのに、ギラついた目は変わらない。
「そうだね、次に会う時は絶対に帰さないよ……いいね?」
「……んっ、……考えてっ……おきます……」
「……っ、うんと言わないなら離さない」
一瞬、唇を離すとお互いの唾液が糸のように長く伸びる。それをむさぼりつくように舐め上げ下唇を甘噛みしながら言われ、息継ぎの合間に仕方なく頷く。傾けた身体を起こし、名残惜しげに唇を離した東雲の胸をひと撫でするとベッドルームを出た。
リビングルームのソファーに無造作に脱ぎ散らかしたワイシャツや上着、スラックスを身に付け、最後にネクタイをしっかり締めるとそのまま来た時と同じように反物を抱え部屋の外へ出た。
「はぁ……ダルっ……」
こんな時間に客室の通路を歩く客もいない。盛大に口にした本音が静かなその場に響き、重い身体を引きずるように歩いてエレベーターへと辿り着く。程なくして扉が開くと、幸いにも誰も乗っていなかった。乗り込み回数ボタンを押し身体を壁に預け、ため息を吐き出す。中出しされた精液は全て掻き出したはずでも、何度も挿れられた後ろはまだ何かが挟まっているような違和感しかない。
「東雲のヤツ……何回ヤったら気が済むんだよ……クソッ」
悪態を吐き、早く家に帰って寝たいと思いながら腰をさすっているといつの間にかロビー階に到着した。
扉が開いて降りると、ちょうど大勢の人達が大広間から溢れ出てきたのに出くわす。
何かイベントでもあったのだろうか。
辺りを見渡すと、広間の出入口に「加賀屋の会」と記された看板が掲げてある。加賀屋主催の何かなのだろうかと眺めていると、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「兄貴っ!」
ついには幻聴まで聞こえるようになってしまったのか。そう思っていると、すごい勢いで肩を掴まれ振り向くと圭がいた。
「圭……」
あまりにも驚き過ぎて、続く言葉が出てこない。
「何やってんだよ、こんな時間に」
少し怒ったような表情で、圭がぶっきらぼうに投げかける。
「しょ、商談だよ。ほら……」
動揺を悟られないように、できるだけ自然に持っている反物を見せると、少しホッとした表情をされた。……が、続く言葉の端々にはトゲトゲしさが滲んでいる。
「こんな時間まで商談するんのかよ」
「まぁ、色々と……」
「色々と、ねぇ……」
完全に何かを疑われ、後ろめたさから圭とまともに視線を合わせられない。口ごもっていると徐に手首を掴まれ、持っていた反物がドスッと鈍い音を立てて床に落ちる。
「な、なに……」
「兄貴って、煙草吸わないよな?」
咄嗟に手を振り解き、落ちた反物を拾い上げながら否定した。
「吸わないよ」
それでも圭は信じていないのか、再び腕を掴まれる。
煙草も東雲のことも圭には絶対に知られてはいけない。けれど……。
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