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「あだ名で呼んだ方がさ、早く仲良くなれそうじゃん?」
「でも、イブは恥ずかしいっつーか……俺、そんなオシャレなあだ名が似合う顔してないし」
「そんなことないって! マジ似合ってる!」
爽やかに笑って、隼人が握った手をシェイクする。
この人懐っこい大型犬のようにグイグイ来るところが、彼が人気な理由の一つらしい。
「俺のことは隼人って呼んでいいから!」
「あー、うん。分かった」
「じゃあ呼んでみて!」
期待でキラキラと輝く瞳が俺を見る。
なんつーか、距離感バグってるっつーか、詰め方がおかしいっつーか……。
いや、高校生の時ってこんなもんだったっけ? 友達の作り方なんて、大人になったら忘れてしまった。
「……隼人」
戸惑いつつも名前を呼べば、花が咲くように笑って、隼人が返事をする。
「イブはさ、どっちのベッドが使いたいとかある?」
「別に、どっちでもいい」
「じゃあ、荷物が置いてある方使えばいっか」
室内には、右と左に鏡写しのように家具が置かれている。
壁際にベッド、勉強机にクローゼット、小さめのタンス。大きな窓が一つあって、白いカーテン越しに光が差し込んでいる。
一般的な学生寮という感じなのだが、部屋は少し広く、お互いの距離も近すぎない。
ルームメイトもいい奴だし、何より隼人は雨宮に一目惚れをするから、俺と恋愛関係に発展することもない。
今の俺にとって、この上なくちょうどいい相手だ。
俺は靴を脱いで、部屋の左側に置かれたダンボールを開け、衣類や日用品の整理を始める。
私服や替えの制服をクローゼットにしまい、下着類はタンスへ。
日用品はどこに置こうか? 目につく場所には置きたくないし、あんまり変なところにしまい込みたくもない。
「この学園って、ちょっと変わってるよな」
右側のベッドに腰掛けた隼人が言う。
「ちょっとっていうか、かなりな」
数ある金持ち学校の中でも、生徒が簡単に手で触れられる場所に、ウン千万の美術品をポンポン置いているのはこの学校だけだろう。
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