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3.ルームメイトは?
先ほどの入学式では、今年の新入生は三百人だと言っていた。
つまり、六階と七階で一五〇人ずつ。西棟と東棟に分かれているから七十五人。
寮室は二人一組で使うことになるので、この階だけで三十室強も部屋がある計算になる。
幸い、エレベーターに近い方から六〇一号室となっていたので、そんなに歩くこともなく、六〇三号室を見つけることが出来た。
ここが、俺が三年間暮らすことになる部屋か……。
深呼吸を一つして、コンコンと扉をノックする。そうすれば、中から短い返事が聞こえてきた。
どうやら、ルームメイトは先に到着していたらしい。
どんな奴だろうか?
陽キャ? 陰キャ? 体育会系か、理系? それとも文系?
……いや、どんな奴でもいい。ただ、何かの間違いで俺がときめくようなことも、俺にときめくこともない、普通のルームメイトであってくれ!
俺は意を決してドアノブを捻り、部屋に入る。
「ようこそ、六〇三号室へ! なんてな」
照れ笑いと共に出迎えてくれたその人の第一印象は、とにかく背が高ぇ……だった。
俺だって小さいわけじゃない、日本人男性の平均身長くらいはある。しかし、そんな俺でさえも見上げなければならないような高身長だったのだ。
なんというか、一八〇後半は確実にあるんじゃないだろうか?
「俺は藤崎 隼人 。アンタは?」
「……橘伊吹」
知ってるよ、という言葉を飲み込んで、名前を名乗る。
藤崎隼人。彼もまた、ゲーム内に登場するキャラクターだった。
属性はスポーツマン、熱血、わんこ。
水無瀬ルートで雨宮に一目惚れをし、三角関係に発展するのだが……。隼人を優先する選択肢やスチルは用意されていても、個別のエンディングが存在しない、この作品を代表する当て馬なのだ。
姉曰く、多くのファンがその事実を受け入れられず、DLCでのルート追加が望まれたり、二次創作がやけに充実していたりするそうで、ようするに人気キャラなのである。
「これからよろしくな、イブ」
「イブ?」
隼人に握手を求められて、その手を握る。
けど、イブってなんだイブって。いや、伊吹を縮めてイブと呼んだんだろうなってことは分かる。
分かりはするんだが、男の俺にイブって……。
呼ばれる方はなんだか小っ恥ずかしいのだ。
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