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第15話 慰撫★

 お父様は常に仰っていました。  別の世界(むこう)には、紛争や奪い合いももちろんあるけれど、身分の違いで殺されたり、虐げられることはこちらほど無かったと。  そして、こうも仰っていました。  魂はみな平等に天へ還るのに、身体を持つと上下関係ができるのはなぜなのだろう、と。  そう、お父様は稀に見る、異世界を体験し、その記憶を保持していたひとでした。そしてその貴重な体験を活かし、身分の差を無くそうと、それには何から始めれば良いかを、常に考えていらっしゃいました。  そして私も、身近に「王族なのに認知されず正しい扱いをされないひと」、「権力を笠に着て好き放題をしているひと」、「奴隷の身でありながら貴族として育てられたひと」がいました。彼らは最初こそ問題はあったものの、話せば領内の農民の子と何ら変わらない、普通の子供でした。もちろん、私も普通の子供でした。  時が経つにつれて私は彼らと仲良くなり、次第にある方に惹かれていくようになりました。いつもお父様の受け売りを話す私に、とても興味を持って聞いてくださるその方は、正式に王子となっても変わらず接してくれました。あの大人しかった彼が、明るく屈託ない笑顔で笑うようになって、私はとても嬉しかったのを覚えています。  その方こそ、現代国王であるシリル・ラッセル・クリュメエナ様でした。  ◇◇  薫は目を開けると、いつものように温かい腕に抱き締められていた。 「……」  今のはベルの夢だろうか、とシリルに擦り寄る。  薫がこの世界に来て、二週間が経った。裸になってシリルの腕で眠ることにすっかり慣れてしまって、慣れって怖いな、なんて思う。 「……シリル……」 「ん……」  声を掛けると、シリルは寝ぼけながら返事をしてくれる。薫は彼のその声が好きだ。 「もう朝か……?」 「うん」  愛しいひとの髪を梳くと、シリルはその手を掴んで指にキスをする。 「……っ、し、シリルっ? ……っ、ん……っ」  薫の両腕はベッドに押さえつけられ、シリルが上に来た。彼の薄く柔らかい唇が薫のそれを吸い上げると、彼はもう、欲情を乗せた瞳でこちらを見ている。 「朝から困った子だね」 「そ、そんなつもりはな……っ」  薫の言葉はシリルの唇で塞がれ途切れた。優しい彼の口付けに、薫の意識は次第にふわふわと薄れ、小さな熱がゆっくりと、確実に大きくなっていく。 「……離れる気になったかな?」 「……ぜ、ぜ、全然、ならないに……決まってる……」 「……そうか」  そう言って、シリルは再び顔を近付けた。  こうした接触はこの二週間で格段に増え、薫はその度に次はどこまでするのだろう、という期待と不安に耐えていた。今のところ口付けだけだけれど、お互い裸なので二人の熱はハッキリと分かっている。 「……はぁ……っ、ぁ……、シリル……っ」  自分の上擦った声が恥ずかしい。けれどシリルは、そんな薫の声を聞いて更に深いキスを仕掛けてくるのだ。 「んぅ……っ、んっ……」  舌を絡め取られ、咥えられ吸い上げられる。その行為でなぜか腰の辺りが疼くのも覚えてしまった。ぢゅっ、と唾液と空気が混ざった音にさえ耳がくすぐったくなり、肩が震える。 「んー……可愛い反応するね、うさぎちゃん……」  左手を縫い付けていたシリルの手が、薫の頬を撫でた。甘く囁く彼の声はうっとりとしていて、再び薫の唇はシリルに塞がれる。 「し、シリル……」  はあ、と息継ぎの時に名前を呼ぶと、彼は「何だい?」と微笑んで薫の髪を梳いてくれる。薫は空いた左腕をシリルの首に回し、引き寄せた。  彼は抵抗することなく顔を寄せて、再びキスをしてくれる。もっとして欲しい、が伝わって嬉しくて、薫は意識が沈みそうな程の口付けに夢中になった。 「もう……悪い子だね」  上擦ったシリルの声がしたと思ったら、耳を擽られる。声を上げて身を捩ったけれど、声は塞がれ身体はシリルの足でがっちりホールドされていた。今までに無かった愛撫に戸惑ったけれど、それもすぐに快楽という波に攫われてしまう。 「……っあ、シリル……っ」  薫は切なげに声を上げた。シリルは少し息を詰めたものの、困ったように笑って薫の濡れた唇をなぞる。 「タイムリミットだ。続きはまた夜に」  愛してる、と軽く額にキスをされ、シリルは離れていく。この熱をどうにかしたい、ともどかしさに悶えて布団の中でうずくまると、シリルがくすりと笑った。 「我慢できないかな?」 「シリルは……我慢できるの?」 「可愛いうさぎちゃんの顔を思い出さなければ。もう少し『寝て』いればいい」  そう言ってシリルは素早く部屋を出て行く。薫を一人にしてくれた配慮だと気付き、むくりと起き上がって下半身を見た。  そこはやはり充血して硬くなっている。薫は逡巡したのち、やっぱり我慢できなくてそこを握った。  握った手を少し動かすと、薫の小さな唇から甘い吐息が漏れる。躊躇ったのはほんの一瞬で、好きなように手を動かし扱くと、すぐに先走りが溢れてきた。 「ん……、んん……」  今の蕩けるようなキスを思い出しながら、薫は続ける。あの優しい手つきでここに触れられたら、意識が遠のきそうな程気持ちいいだろうな、なんて考えたら腰が跳ねた。 「んっ……あぁ……っ、シリル……っ」  薫は四つん這いになってその妄想を展開させる。  薫をギュッと後ろから抱き締めて、中心を擦り上げながら背中やうなじにキスをするシリル。腰がヒクヒクと前後し、背中が反ったり丸まったりすると、ゾクリとする声で「可愛いね、もう出そうかな」と耳に吹き込まれる。 「あっ、……──ッ!」  薫はひときわ大きく背中を反らした。先端から白濁したものが勢いよく飛び出し、ベッドのシーツを汚していく。  可愛かったよ。  シリルのそんな声が聞こえた気がした。そんな妄想にさえ身震いし、こんなに気持ちがいい自慰は初めてだ、と薫は脱力してベッドに転がった。

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