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第16話 愚王★
着替えてシリルの部屋から出ると、ドアのそばにはロレットとエヴァンがいた。
「ふぁっ!? い、いいいいいいいたんですかっ?」
「ああ。エヴァンにまた起こされたんだが、こいつ、部屋には入らない方がいいって……」
「あああああああ! ……待たせてしまってすみませんっ。行きましょう!」
薫は慌てて話題を打ち切り、歩き出す。エヴァンは終始だんまりで、視線を合わせなかった。この様子じゃ薫が何をしていたかも知られているな、と全身が羞恥心で熱くなる。
そのあと三人で朝食を食べ、いつものようにロレットやエヴァンの仕事を見学し、仕事が終われば話をしたり本を読んだりして一日を過ごすのだ。
そして、一日が終わればシリルを待つ。正直同じことの繰り返しで飽きなくもないけれど、シリルの為に温泉で身体をしっかり洗い、裸でベッドに入って待つことにも慣れてきた。
そして、それから一ヶ月経つ頃には、城の使用人の間で薫は噂になっていたのだ。
「シリル、今日はお仕事無いの?」
「ああ、うさぎちゃんの為に今日は休みにしたよ」
薫はシリルにしなだれかかり、人目もはばからずキスをしたり身体を撫で合う。そんなことをしていれば、当然噂にもなるだろう。けれど薫にはシリルの存在が全てになりつつあったし、やることといえばシリルとイチャつくことだけ。自分がいることでシリルが癒されるなら、積極的にその役目を買って出よう、と薫は思った。
そんな薫とシリルに、ロレットは何も言わずにスルーしている。けれど、エヴァンは違った。
「シリル……貴方今、ご自分が何をしているか分かっていますか?」
ある日の朝食時、いつものように四人で食べていた時のこと。シリルは薫を膝の上に乗せ、口移しでワインを飲ませていた。薫はそれだけで身体が期待し、背中を震わせる。
エヴァンの声は鋭かった。薫は不安に身体を縮こまらせると、シリルはエヴァンに注意してくれる。
「あまり怖い声を出すな。うさぎちゃんが怯えてるだろう」
その言葉と同時に尻を撫でられ、薫は甘い声を上げてシリルに抱きついた。
「貴方たちが、今何て噂されているかご存知ですか? 聡明で、夢を実現させようとしていたクリュメエナ国王はどこに行ったんです?」
唇と、握った手をワナワナと震わせ、怒りを抑えたようなエヴァンの声に、薫は振り返って微笑む。
「『愚王』と『愚王の慰みもの』ですよね? 大丈夫です、シリルは愚王なんかじゃないですし、僕はシリルを愛していますから、慰みものなんかではありません」
そう言うと、エヴァンは声を震わせながら呟いた。
「シリル、貴方はどうなんです?」
「愚問だな」
シリルはそう言って、薫の唇に口付ける。それは何度も繰り返され、唇が解放された時には、薫はもう身体に力が入らなくなっていた。
「ぁ……ん、シリル、そんなキスされたら、我慢できなくなっちゃう……」
薫はとろんとした目でシリルを見つめると、シリルの碧い瞳の奥に、欲情が乗る。そんな目を見つめているだけで、薫は自分が求められていると実感でき、身震いするのだ。
「寝室に行くか?」
「シリル!」
エヴァンが叫ぶ。この人は、どうしてそんなに『私たち』の仲を邪魔しようとするのだろう? それはシリルも思ったようだ。少しうんざりしたように言う。
「何なんだエヴァン。言いたいことがあるなら言ってみろ」
「……貴方、ここのところ仕事なんてしてないじゃないですか」
エヴァンの言葉に、薫は「そういえば前よりも休みの日が多くなったな」と思った。でもそれは、薫との時間を大切にしてくれているだけであって、シリルがサボっている訳じゃない。
「どうかシリル……目を覚まして……っ」
エヴァンの目から涙が零れた。するとロレットが立ち上がり、エヴァンを慰めるように背中に手を置く。
「……まずは、朝食を食べよう」
冷静なロレットの言葉にエヴァンはキッと彼を睨むと、席を立って部屋を出て行ってしまった。ロレットは一つため息をつき、パンが入ったカゴを持つと「慰めてくる」とエヴァンの後を追って行ってしまう。
「……二人きりになれたな」
シリルは柔らかい表情でこちらを見つめた。碧い瞳が近付いて、唇を軽く吸われる。
「……ぁ、シリル……愛してる……」
「私もだよ……」
そう言い合ってまたキスを交わした。また何度も唇を食み、吸われているうちに、シリルの手が薫の胸を撫でる。シャツのボタンを外され、手が中に入ってくると、揉むように胸をまさぐられた。
「んん……シリル、僕胸無いよ?」
「でも、これ好きだろう?」
シリルは開いたシャツの隙間から、薫の胸に吸い付く。途端に背中を反らした薫は、シリルの首に腕を回し、ヒクヒクと腰を動かしながらその快感に耐えた。
「ああ……挿れていい?」
「え……もう?」
息を乱しながらそう答えると、シリルは「あまりにも可愛いから」と言い薫の尻を掴んで揉む。高い嬌声を上げた薫は、少し戸惑ったけれどこくりと頷いた。
正直、後ろに挿れられるのは苦手だ。いつも性急なシリルは挿れても遠慮なく腰を振るばかりで、快感とは程遠い。
けれど、それ程自分を欲してくれているのだと思うと、胸の辺りがキュッと締め付けられて、同時に後ろも締まるのだ。そうなったらシリルはとても気持ちよさそうに果てるので、薫はなるべくシリルの要望を聞くようにしていた。
また、薫は薫で、人に触れられる気持ちよさを初めて知ってしまい、ずっと触っていてもらいたいと思う程に、その欲望で頭がいっぱいだった。だから薫には、拒否する選択肢すらない。
二人して下半身を露にしたら、再び空気が入る余地もないほど密着する。
「あぁ……うさぎちゃん……、大好きだよ、愛してる……」
挿入しながらうわ言のようにそう呟くシリルに、薫は息を殺しながら彼を受け入れた。
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