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第40話 楚夢雨雲★
エヴァンが、薫の膝裏を持ってゆっくりと入ってくる。彼が丁寧にしてくれたお陰で、それほど痛みはなかったものの、指とは大違いの質量に、圧迫感と苦しさに耐えられず、ボロボロと泣いてしまった。
「ごめんさい、苦しいですね……」
そう言うエヴァンも苦しそうだ。もう少しですから、と彼は腰を押し進めてきて、薫はフーッと息を吐く。
エヴァンが額にキスをした。
「……全部入りましたよ。平気ですか?」
平気な訳がない、と薫は声を上げたかった。けれどそんな余裕はなく、激しく呼吸を繰り返すだけだ。
みっちりと後ろを埋められ、自分の後ろがヒクヒクと動いてエヴァンを締めつけているのが分かる。そしてエヴァンも、薫の中で跳ねていた。
「はぁ……っ! え、エヴァ……ッ!」
「ええ大丈夫です。薫が落ち着くまで待ってますから……ゆっくり呼吸して……」
それでもそんなことを言うエヴァンに、薫はまたギュッと締めつけてしまう。小さく呻いて顔を顰めたエヴァンは、耳が真っ赤になっていた。
薫の呼吸が落ち着いてくると、エヴァンは胸までピッタリと身体を合わせる。彼の湿った肌が愛しくて嬉しくて、薫は首に回した腕に力を込めた。
「……少しずつ、動きますよ……?」
そう言ったエヴァンは宣言通り、ゆっくりと少しだけ抜いて、また同じ速さで戻す。彼からしたら焦れったいだろうけど、薫はそれがありがたかった。シリルとの行為はいつも性急で、挿入にはいいイメージがなかったから。
そしてエヴァンが丁寧に解してくれたおかげか、痛みや苦しさはあまりない。その代わり腰の奥が痺れるような、指で刺激された時のような感覚が、薫の意識を支配していく。
「ふ……っ」
思わず肩を震わせると、エヴァンは唇に啄むようなキスをくれた。それをきっかけに彼は段々動きを大きくし、薫を揺さぶる。
「……っ、んん……っ」
「ああ薫……痛くは、ないですか?」
上擦ったエヴァンの声が色っぽい。彼のあの、甘い香りがふわりとして、どうしようもなく感じてしまい、背中を反らして快感に耐えた。
(快感? 僕、後ろに挿れられて感じてるの?)
シリルとの時には一切得られなかった感覚。エヴァンの切っ先が、薫のあの部分に当たっては擦れ、ゾクゾクが止まらない。
「え、エヴァンっ、どうしよう……っ」
腕や足が小刻みに震えた。彼は動きを止めて薫の顔を覗き込む。
ラベンダー色の髪が薫の顔の横に落ちていて、当たってくすぐったい。女性的な美しさがあるエヴァンの顔を、薫は潤んだ瞳で見上げた。
「どうしました?」
彼の息がまた上がっている。頬が朱に染まり、薄い唇も赤みを帯びていた。綺麗で、優しい彼を大事にしたい。そんな感情が湧いて胸が熱くなる。
そしてその感情は、また涙となって溢れ出るのだ。
「……っ、後ろでも、気持ちよくなれるんだって、思ったら……エヴァンが凄く愛おしいと思って……っ」
「……薫……っ」
暗にシリルとの情事がどうだったかを話すと、エヴァンは薫に激しいキスをした。唇を遠慮なしに吸い上げ、噛み、舌を絡ませて吸い上げられる。
「……ッア! だめ、だめ奥……ッ!」
パンパンと、音が鳴るほどにエヴァンは腰を打ち付けてきた。彼に絡みつく薫の粘膜は、薫の意志とは関係なく締まり、奥へ奥へと誘っていく。再び薫の中の悦い場所が穿たれ、擦られ、壊れたおもちゃのようにだめ、だめと叫んだ。
「だめじゃないでしょう? ずっと私を締めつけているのに……」
「ダメ! いい! 気持ちいいとこ当たって……やだぁ!」
「ふふ……どっちですか?」
あまりの快楽に、そのままどこかへ飛んでしまいそうで、薫は必死に言葉を紡ぐ。必死すぎて脈絡がないことにも気付かず、それでもエヴァンは動きを止めないので、薫は声もなく悶えた。
すると、エヴァンの動きが止まる。
「ああ……出てしまいましたね……」
彼が薫の腹辺りを見て呟いたので、鼻を啜ってそこを見ると、そこには白い精液が付いていた。勢いよく飛び出たらしいそれは、薫の鎖骨まで飛んでいて、穴を掘って埋まりたい程恥ずかしくなる。
「……っ、ン……ッ!」
すると突然、エヴァンが薫から抜け出した。どうしたのか、と見ると、彼は薫の額にキスをして、四つん這いになるように言う。
言う通り四つん這いになると、またゆっくりとエヴァンが入ってきた。この体勢だと、奥までしっかり入ることに気付いた薫は、まだ動いてもいないのに腰を震わせる。
(やばい、この体勢……アソコにしっかり当たる……っ)
そこを刺激するだけで、触らずに射精もできると知った薫は、勝手にまた息を弾ませた。入っているだけで気持ちがいいと感じるので、これが動いたらどうなるのだろう? と期待と不安が押し寄せる。
「キツくないですか……?」
「ん……っ」
本当にやばい、と薫は悶えた。エヴァンが話す僅かな振動でも感じ、背中を震わせると、彼は再び動き出す。
「──ああっ、深……っ」
あまりの衝撃に、肘がカクっと折れてベッドに突っ伏した。乱れた布団を手繰り寄せて握り、強い快感に支配されないよう、しがみつく。尻だけ高く上げた体勢で、薫は全身を震わせながら耐えていると、次第に何かがせり上がってくるような感覚がして、思わず後ろに手を伸ばした。
「だめ! そこダメ! 何か来ちゃうっ!」
「ここですか? ……こう?」
エヴァンは薫の言葉を聞いて、角度を変えさらに深く突いてくる。視界にチカチカと星が散り、後ろに伸ばした手が再びしがみつく場所を探して彷徨った。
エヴァンがその手を取って、強く握る。
「本当に……貴方は、……かわいいですね」
「んんんん! エヴァン! だめ! ああっ!」
薫は穿たれながら、首を激しく振った。嗚咽のように喘ぎ、プルプルする足を止めようと踏ん張った、その時。
「──ッ!!」
一瞬にして頭が真っ白になる。全ての感覚が途絶え、背中が反り上がった。再びベッドに脱力すると、ゼイゼイと二人の呼気の音が聞こえる。
(……何これ……何が起きたの?)
「薫……」
いつの間にかエヴァンも動きを止めていた。そして耳に唇を寄せて彼は囁く。
「……イキました?」
「……っ!」
ビクッと肩を竦めると、彼は「気持ちよかったみたいでよかったです」と言って、寝そべるように言われ、薫はクラクラしながらも膝を伸ばしてうつ伏せになった。
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