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第41話 余韻嫋嫋★
うつ伏せになった薫の上に、エヴァンが重なる。さらに深く入ったエヴァンの熱が、薫の中でヒクヒクと動いていた。
「薫……私も、いいですか?」
聞かれた意味を察して、薫は頭を上げて後ろを振り返る。唇を重ねると、彼の顔がかなり熱く感じ、胸がキュッと締めつけられた。それと同時に後ろも締まり、彼が呻く。
エヴァンは薫の胸に腕を回し、抱きしめながら腰を動かした。彼の体温、上がった息を意識して、薫も堪らず声を上げる。
「え、エヴァンも、いいのっ?」
「ええ、いいですよ。とても……」
前に回ったエヴァンの手が、薫の胸の粒に触れた。律動に合わせて指で擦られ、薫はまた呆気なく絶頂する。
どうしよう、こんなに感じられるものだとは思わなかった。また自分が我慢して、エヴァンの気が済むまで付き合う……それが彼への愛だと思っていたのに。
「エヴァンっ、だめ! ああ! 気持ちいい! 乳首も一緒はおかしくなるっ!」
薫はまたフルフルと顔を振った。しかしそんな薫の耳を、エヴァンは甘噛みして、頭を動かすことはできなくなる。
「薫……薫、かわいい……もうイキますよ……?」
彼がそう言うと、耳元で呻き声がした。熱いものが中に放たれるのを感じ、それにも薫はビクビクと腰を震わせる。
はあはあと息を乱すエヴァンは、そのままくたりと体重を預けてきた。そしてまた、薫の耳を食むのでビクッと肩を震わせる。
「エヴァン、耳触るの……好きなの?」
「え? ……ああ、無意識でした。薫の反応がかわいいのでつい……」
そう言って、彼は軽くキスをしてくれた。どうやら落ち着いたらしい、脱力して抱きついてくる重みが嬉しくて、胸がいっぱいになり、涙が浮かぶ。
「かわいいって……僕、男だよ?」
「分かっていますよ。でも、貴方は雨の中、捨てられている仔犬みたいでかわいいです」
妙な例え方をされて、薫は首を捻った。そんな薫にエヴァンはクスリと笑い、そっと薫から出ていく。少し寂しいと思っていたら、彼は抜いただけでピタリとくっついて抱きしめてくれた。
「僕を見て、僕を愛して、とうるうるした瞳をしているんです。拾って情が移るのを避けていました」
本当の捨て犬のように言われ、薫は複雑な気分になる。どうせなら、そんな所より性格がいいとか、そんな風に言われたかったと思っていたら、エヴァンは笑う。
「私の占いの精度が落ちていったのは、貴方が私と深く関わるからだったんですね……」
「……自分のことは視えないんだっけ?」
そうです、とエヴァンは薫の髪を梳いた。でも、過去は視えるので、しばしば薫のことを占っていたという。
「でも、やはりベルの過去と混ざってしまって……貴方が思い出したくないような前世だった、と言うことは分かりました」
万能じゃないエヴァンの能力……分かってしまうからこそ、深く相手に共感してしまう優しい彼だからこそ、薫はここで今生きているのだ。
「エヴァン……」
顔が見たくて、薫は彼を振り向く。
「ありがとう」
そう言って微笑んで、彼に抱きついた。エヴァンは薫の頭を撫でて、身体を洗いに行きましょうか、と微笑む。
その笑みは、慈しみに満ちた優しい笑顔だった。
◇◇
「エヴァンは、その丁寧語止めないの?」
二人でシャワーを浴びて出ると、エヴァンがまだ丁寧語を使っていることに寂しさを覚えた薫は、そう尋ねてみる。
彼は洗った髪を櫛で梳いていて、そのあとに先程使った瓶の中身を髪に塗っていた。どうやらエヴァンの甘い香りはヘアオイルだったらしく、あの香りを嗅ぐ度に情事を思い出しそうで、薫は顔が熱くなる。
「まあ、癖なので……」
「じゃあ、僕と二人きりの時からでも、止めようよ」
「……分かりました、努力します」
言ったそばから丁寧語を使うエヴァンに、違うでしょ、と言うと彼は笑った。
「なに?」
「いえ、ベルとも同じようなやり取りをしたな、と」
でもその時は、さすがに王子であるシリルの前で、タメ口はできなかったという。しかも奴隷を奴隷として扱いたいロレットのそばだったから、結果的にタメ口になれなくてよかった、とエヴァンは言った。
「じゃあ、練習しよう」
薫はそう言って、エヴァンに抱きついた。
「僕、エヴァンに助けられたこの命を、この世界でどう活かせるか、考えたんだ」
エヴァンは薫を優しく見つめながら頭を撫でる。
「……エヴァンは嫌かもしれないけど……僕、ウーリーの手伝いがしたい」
薄紫色の瞳を真っ直ぐに見上げて、薫は宣言した。
ベルがやろうとしたことを、薫もやりたいと思ったのだ。読み書きは怪しいけれど、幸い計算はできる。口頭なら教えることができるし、薫も一緒にこの世界の言語を勉強すればいい。
「……貴方はベルの生まれ変わりだから、そういう考えを持っているのかと思ったけれど……元々優しい人、なんだね」
後半にタメ口を意識して、変に途切れたエヴァン。それがおかしくて笑った薫は、すぐに唇を塞がれた。
「ん……」
途端に空気が色付き、熱がこもったものになる。
唇を離したエヴァンは、薫の耳を食みながら、笑った。
「じゃあ私も、薫のお手伝いをしよう」
「うん……」
そして二人の息は、お互いに深くまで入り込む。
薫はまた、シャワーを浴びたのが無駄になりそうだな、と彼の頬を撫でた。
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