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出会い エナ3

 とりあえず見ていられない状態のドナとノンは、カーテンで仕切られた患者用のベッドの一つに押し込み、改めてティムと向き合う。今は昼休み。後三十分もすれば、午後の診察が始まる。 「えっと、ティム様?」 「ティムでいい。いや、ティムと呼んでくれ。」 「はぁ・・・ではティム。魔王城に滞在してるんですよね?他にする事はないんですか?」 「敬語もなしでいいんだが・・・まぁ、おいおいでいいか。あぁ、魔王城に居る。さっき言った通り大使としての仕事は済ませたぞ?かなり頑張って五日で済ませたんだ。滞在期間は一ヶ月だから後二十五日は自由に行動出来る。」 「・・・僕は仕事があるので、魔族の国の案内とか出来ませんよ?それに診察時間にここに居るのなら、本当に手伝っていただきますが?」 「あぁ、もちろん手伝うよ。何をすればいい?オレの回復魔法はかなりの怪我や病気を治せるぞ?」 「では、僕では治しきれない患者はお願いします。実際、痛みしかとれない方もいらっしゃるんで、根本を治していただけると助かります。」 「任せておけ。」 こうして、色々と腑には落ちないものの、ティムに午後の診察を手伝ってもらう事になった。  今日も診察時間になると、怪我や体調不良の魔族がちらほら現れる。まずは泣きながら子どもが飛び込んで来た。近所に住むジョンだ。 「エナせんせー、いたいよー!転んじゃってすりむいたぁー!」 「あらら、これは痛いね。かわいそうに。」 僕は、まず傷を魔法で出した綺麗な水で洗って、回復魔法をかけた。 「なおった?!ありがとうエナせんせー!あっ、ママ!!」 ジョンの母親が慌てた様子で入って来る。 「エナ先生済みません。この子ったら、すぐにこちらを頼ってしまって。すり傷くらいほっとけば治るのに・・・」 「いえいえ、痛いのは嫌ですからね。それに化膿したら大変ですから早いうちに治しておいた方がいい。」 「ありがとうございます。代金はこちらに入れておきますね。」 「ありがとうございます。ジョン、もう転ぶんじゃないよ!」 「はーい!ありがとう、エナせんせー!」 ジョンと母親が出て行くと、毎日のように腰の痛みを取って欲しいと来る、ミカ婆さんが入って来た。 「エナちゃん、悪いが今日もお願い出来るかの?」 「ミカ婆さん、ちょうど良かった。今日は、僕より上級の回復魔法を使える方が居るんです。痛みを取るだけじゃなく、痛みの元を治してもらえるかも知れませんよ?」 「それはありがたいが・・・ワシはそんなに大金は払えんよ?」 あっ、それは考えてなかった。ティムにどれくらい給料?を払えばいいんだろう? 「婆さん、いつもエナに払ってる金額と同じでいい。で、腰だな?うん、よし。もう治ったぞ?」 「ふぁっ?!本当じゃ、痛くないだけじゃなく、いつもより伸ばせるし、元に戻ったようじゃっ?!ありがとう先生。本当にいつもの金額でいいんかの?」 「あぁ、いいぞ。」 「ありがたい事じゃ。ところで先生はあれか?エナちゃんの彼氏か?」 ちょ、ちょっとミカ婆さん何言ってんの?! 「・・・になる予定だ。」 「ふぉっおっ!!それはいい。頑張りな。応援するよ。エナちゃんは本当にいい子じゃよ。なのに恋愛に全く興味がないから心配しておったんじゃ。先生、エナちゃんを頼むよ。」 「おう!任せておけ。」 二人で何盛り上がってるの?! 「お願いやめてっ?!ミカ婆さん本当に治って良かったね。もう腰を痛めないようにね?」 「ありがとうよ、エナちゃん。お言葉に甘えていつもの金額を入れさせてもらうよ?」 ご機嫌で帰って行くミカ婆さんを見送りながら、こっちもご機嫌なティムを見てため息が出た。 その後も数人の患者を見る。ティムは始終協力的に手伝ってくれた。いつも鍛えすぎて筋肉痛や肉離れになって来る、騎士団のサムさんには冷たかったけど。 「これは治す必要がないだろう?無理をするお前が悪いし、筋肉痛は魔法で治すより自然回復させた方が筋力がつく。 お前は筋力をつけるために鍛えているんだろう?ならもうここに来る必要はない。」 えっ?そうなの?筋肉痛って回復魔法かけない方がいいの? 「あくまで筋力をつけたい場合の話だ。普通の魔族が筋肉痛で困ってるのなら、回復魔法をかけてやればいい。」 そっか、勉強になった。サムさんは悔しそうにティムをにらみながら帰ったけど、筋力をつけたいのならこの話を知れて良かったよね?何が不服なんだろう?

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