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第10話
嬉々として、口の周りをケチャップで汚しながら、小さな煜瑾は美味しそうに恭安楽が作ったオムライスを頬張っていた。
「どういうこと?」
優しい仕草で煜瑾の口周りを拭き、包夫人は憐れむように煜瑾の柔らかい髪を撫でた。
「私にも分かりません…。そもそも、どうして子供の姿になってしまったのかも分からないのですから」
「煜瑾ちゃんが子供の姿になってカワイイとは思ったけれど…。中身まで子供になってしまったら、それはもう…『煜瑾ちゃん』ではないのではなくて?」
母に指摘されるまでもなく、文維もまた思い悩んでいた。
「おかあしゃま。…もうお水はイヤ。煜瑾は、ジュースが欲しいでしゅ~」
オムライスを食べ終えた煜瑾は、コップの中の水を飲み干し、物足りないらしくジュースをねだった。
「じゃあ、少しだけですよ」
「は~い」
お利口さんな返事をする煜瑾に対し、包夫人は目を細めながらも、どこか悲しそうに、煜瑾が食べ終えたお皿とコップを手にしてキッチンに戻って行った。
「ねえ、文維おにいちゃま?」
無邪気な煜瑾に、文維は当惑する。素直で無垢な煜瑾は、確かにそこにいる。けれど文維を愛し、文維の愛を受け止める、高潔で聡明な「煜瑾」は明らかに姿を消していた。
「なんですか?」
薄く笑った文維は、煜瑾の目にはなるべく温柔に見えるように答えた。
「煜瑾は、文維おにいちゃまが大好き!おにいちゃまは?」
一点の曇りもない純朴な眼差しで、煜瑾はそう言った。それが文維にはショックで、悲しくて、苦しくて、目が潤むのを止められなかった。
「おにいちゃま?」
文維の様子に、優しい幼子 は同じく悲しそうな顔になる。
「文維おにいちゃまは、煜瑾がキライでしゅか?だから、泣いているの?」
そう言い終わらないうちにも、煜瑾の大きな黒い瞳は涙でいっぱいになる。
そんな幼気 な煜瑾が愛しくて、文維は思わず駆け寄ってしっかりと抱きしめた。
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