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第15話

 無邪気な煜瑾(いくきん)の「大いなる苦悩」に、恭安楽(きょう・あんらく)は声を出して笑った。 「おほほ。では、バナナミルクと、ブラウニーを1つだけですよ」 「は~い!」  ご機嫌な煜瑾は、(ほう)夫人に手を引かれてキッチンへと消えた。  1人リビングに取り残された文維(ぶんい)は、仕方なく(とう)家へ電話を掛ける。 「はい、唐家でございます」  電話には、やはり唐家ご自慢の優秀な執事が出た。 「包文維です。実は今夜、唐家にお伺いして、煜瓔(いくえい)お兄さまとお話がしたいのですが」 「?…包先生だけで、ございますか?煜瑾坊ちゃまはご一緒ではないのですか?」  文維と煜瑾が唐家に来るという連絡は、これまで煜瑾がしてくるものだった。それが文維からの電話とあって、(ぼう)執事は腑に落ちない。 「煜瑾も…、一緒ではありますが…」  なんとなく歯切れの悪い文維の口ぶりに、茅執事はますます不審を覚える。 「とにかく、煜瓔お兄さまは、何時ごろにお帰りですか?」  話を逸らすつもりではないが、文維は直接に唐煜瓔の帰宅時間を尋ねた。 「旦那様は、ちょうど明日の朝が早いということで、今夜は定時にお戻りの予定です」 「分かりました。6時ごろ、伺います。お兄さまがお戻りになるまで、お待ちしてもよろしければ」  何もかもが茅執事には納得がいかない文維の態度だが、あと数時間で煜瑾も一緒に唐家に戻るということであれば、やぶさかではない。 「では、煜瑾坊ちゃまの分も合わせて、お夕食の支度をさせていただきます」 「あ…、は、はい」 いつもの文維とのあまりの違いに、茅執事は違和感しかない。 「包先生、煜瑾坊ちゃまに何かございましたか?」 「……」 言い出しかねている文維に、茅執事はこれ以上聞くことは無いと思った。 「では、6時にお待ちしております」 丁重にそう言って、茅執事は電話を切った。

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