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第16話

文維(ぶんい)おにいちゃま~」  電話を切り、その先のことを考えて気の重い文維の下に、キッチンから煜瑾(いくきん)が跳ねるように戻って来た。 「どうしました?」  弾むような小さな体を抱き留め、文維は穏やかな笑顔で煜瑾を見た。 「おかあしゃまのバナナミルクができました~」  たったそれだけのことが、嬉しくてならないという満面の笑みの煜瑾だ。それが純真で、あまりに清らかで愛おしい。 「さあ、文維もお相伴なさい」  キッチンから、トレイに乗せたグラスを、3つ運んできた恭安楽(きょう・あんらく)は言った。 「あ、いえ…私は甘いものはあまり…」 「バナナの甘さだけだよ。健康にいいのだから、文句を言わずに飲みなさい」  そう言って包夫人が文維の前にグラスを置くと、煜瑾は自分の場所と決めたソファの隅にお行儀よく座って、自分の番を待っている。 「本当に煜瑾ちゃんはお利口さんね。これは煜瑾ちゃんの分ですよ」 「ありがとうございましゅ、おかあしゃま」  心から嬉しそうにニッコリと笑い、煜瑾は両手でグラスを持ち、自分のグラスにだけ用意されたストローでバナナミルクを飲み始めた。 「お味はいかが、煜瑾ちゃん?」 「とっても!とってもおいしいです、おかあしゃま!」  そう言って煜瑾は一度グラスを置き、ギュッと恭安楽に抱き付いた。 「おかあしゃま、こんなにおいしいのを煜瑾に作ってあげて、大しゅき!」 「まあ、なんて可愛らしいことをいうのかしら、煜瑾ちゃんってば」  楽しそうに抱き合い、バナナミルクを飲み、1つだけブラウニーを食べる、恋人と母を見る文維の眼差しは切なく、暗い表情だった。

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