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第24話

「『現象』、とおっしゃるのですか?この非科学的で、不条理な状態を?」  混乱している文維(ぶんい)は、知らず知らずに声が大きくなる。  それに驚いたのか、小さな煜瑾(いくきん)は印象的な黒い瞳を見開いて、文維をジッと見詰めてしまう。 「文維…お兄ちゃま…」  (けわ)しい表情の文維に、嫌われたとでも思ったらしく、見る見るうちに煜瑾の目に涙が浮かんだ。 「文維お兄ちゃま、怖いお顔~。煜瑾のこと、キライ?」  嫌われまいとしてか、泣くのを我慢する煜瑾は、ふっくらとした可愛らしい唇を噛んだ。  そんな仕草は、煜瑾のクセだった。大人の煜瑾も時々は文維にそんな顔をしてみせた。 「大丈夫よ、煜瑾ちゃん」  幼児が泣きだす前に、お母さまは不安そうな小さな体を抱き寄せた。 「心配しないで、煜瑾ちゃん。この世界に、あなたの事を嫌いだという人なんて1人もいませんよ」 「その通りです」  唐突に会話に入って来た(ぼう)執事に、包親子はまたもや驚かされる。 「そのままお食事をお続けください。包夫人と包先生へのご説明は、私の方からさせていただきます」  そう言いながら茅執事は、煜瑾が食べ終えたエビ団子と白菜のクリーム煮のお皿を引き、代わりに、キレイに小骨まで取り去り、丁寧に揚げた白身魚の甘酢あんかけのお皿を置き換えた。 「残さずに全部召し上がったら、今夜のデザートは、煜瑾坊ちゃまの大好きなイチゴのババロアですよ」 「イチゴ?煜瑾の大しゅきな、イチゴでしゅか?」  輝くような満面な笑みで、周囲の大人たちの顔を見渡し、煜瑾は幸せそうに食事を続けた。  こんな天使のような幼子(おさなご)の存在は、人々の心を和ませ、癒した。  けれど…。  文維にとって、この天使は、決して愛する「煜瑾」では無いのだ。  そのことに文維は苦悩していた。

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