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第28話

文維(ぶんい)おにいちゃま?イチゴのババロアはキライでしゅか?」  イチゴのババロアに大喜びの煜瑾(いくきん)だったが、目の前に座る文維がいつまでもデザートに手を出さないことに気付いた。 「文維お兄さまは、甘いものは食べないのよ。煜瑾ちゃんが食べてあげたら?」 「いいのでしゅか、おかあしゃま?」  印象的な大きな瞳を輝かせ、煜瑾は至福の笑顔を浮かべる。 「お義母(かあ)さま、そんなに食べさせては…」  唐煜瓔(とう・いくえい)が心配して声を掛けるが、恭安楽(きょう・あんらく)は大らかに笑った。 「あら、だって、これは煜瑾ちゃんの夢なのでしょう?夢なら好きな物を好きなだけ食べさせてあげればいいじゃないの」 「食べていいのでしゅか?」  あっけらかんとした包夫人に、期待を込めて煜瑾が訊く。  さすがにお嬢様育ちの恭安楽は、精神的に柔軟性が高く、現状をすっかり受け入れているようだ。これが現実ではなく夢ならば、誰もが好きなように行動して良いのだと理解していた。 「文維お兄さまにお願いしてみて」 「は~い」  無邪気で幸せそうな煜瑾に、大人たちも思わず笑顔になる。 「文維おにいちゃま?イチゴのババロア、煜瑾にあげましゅか?」  小首を(かし)げる仕草が、この上なく可愛らしく、唐煜瓔も茅執事も目尻が下がりっぱなしだ。 「煜瑾は、イチゴのババロア、食べていい?」  もちろん文維も小さな煜瑾に夢中だと思われた。 「ダメです」 「…!」  だがい思わぬ文維の拒絶に、煜瑾だけでなく大人たちも驚き、声を失う。 「こんな小さな子がデザートを2皿も食べては、お腹を壊してしまいます」  冷ややかにそう言って文維は、今にも泣きそうな煜瑾を見つめた。

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