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最終話

 今朝、文維(ぶんい)煜瑾(いくきん)が目覚めたのは、(とう)家の広大な庭園にあるゲストハウスだった。ゲストハウスと呼ばれているものの、今では当主の唐煜瓔(とう・いくえい)が、溺愛する弟のパートナーである包文維(ほう・ぶんい)の専用の別邸として与えたものだ。  古いゲストハウスを、インテリアデザイナーとして仕事を始めた煜瑾が、文維の好みに添うように改装したばかりだった。  大きな窓から明るい太陽が降り注ぎ、心地よく、広々としたダイニングキッチンで、煜瑾と文維は朝食の準備をしていた。  今朝の主食は、煜瑾の作ったクロワッサンサンドだ。ちぎったレタスと、スライスしたゆで卵、クリームチーズに、生ハムまで、前日に有能な唐家の執事が冷蔵庫に用意しておいたものではある。それを挟むだけなのだが、煜瑾は調理の達成感を十分に楽しんでいる。  隣では文維がフルーツをカットし、お茶の用意もしている。  煜瑾の作ったサンドイッチと、文維の用意したフルーツ、そしてアールグレイのお茶と、コーヒーを前に、2人はダイニングテーブルで向かい合わせに座った。 「文維の()れてくれたミルクティー無しに、朝は迎えられません」  上品で、それでいて可憐な笑みを浮かべて煜瑾が言った。 「煜瑾のサンドイッチを食べたら、もう、どんな高級なサンドイッチを出されても味気ないですね」  文維がそう褒めると、煜瑾は、はにかみながら自作のサンドイッチを口にした。 「ねえ、煜瑾?」 「なんですか、文維?」  屈託の無い煜瑾に、文維も優しく微笑む。 「昨夜は…、どんな夢を見ました?」  文維の質問に、煜瑾は一瞬考えるが、すぐに純真な笑顔に戻った。 「夢は…見ていないと思います。もし見ていたとしても、もう覚えていません」 「本当に?」  聞き返す文維に、煜瑾は不思議そうに小首を傾げる。そして、すぐに文維でさえ魅了される、高雅で美しい笑顔で答えた。 「むしろ、今が、まるで夢のようですよ」 「え?」 「気持ちのいい朝日を浴びて、大好きな人と一緒に、美味しい朝食をいただいて…。これ以上に幸せなことって、考えられないです。夢みたいに、幸せです」  そう言って煜瑾は腰を上げ、向かいに座る恋人へと体を伸ばし、無邪気にチュっと(ひたい)にキスをした。 「こんな夢なら…いつまでも覚めなくていい…」  文維はそう言うと、煜瑾の頬に手を掛け、近づけるとその柔らかい唇に深い口づけをした。    そして、明るい日差しの中、2人は夢のように幸せな時間をいつまでも堪能した。 〈おしまい〉

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