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第7話

アイリスの真似をして、セレンに礼をしようとしたけれど、好き嫌いまでは考えていなかった。日替わりの弁当だけれど、全部のおかずが苦手というのは考えにくい。どうしたのかと思って、セレンに声をかける。 「ああ、いや……」  セレンの代わりに、アイリスがハウディの問いに答えてくれた。 「あのね、ハーちゃん。お兄ちゃん、おべんとう食べたことないんだって」 「え……、あ、えっと……」  弁当を食べようとアイリスが言ったら、どうやって食べればいいのかわからないと言われたらしい。 「お兄ちゃん、おっきなテーブルでごはんたべるんだって」  アイリスの言葉を聞いて、察した。  一回目は肉食獣であるセレンが怖くてまともに見ることができなかった。  二回目の今日はアイリスのことに気が取られていて、気づかなかった。けれど、よく見てみたら、セレンの身に着けているものは、どれも高価そうなものだ。着ている服も張りがある。きっと質のいい、仕立てたもの、なのだろう。 「ご、ごめんなさい。テーブル! テーブル出しますね!」  小さな簡易のテーブルを車の外に出して、椅子を二つ並べる。片方に座るようセレンに言って、もう一つの椅子にアイリスを座らせ、水筒のお茶をおまけの味噌汁に使う紙コップに注いだ。  セレンはおそらく、ハウディとは違う暮らしをしている人なのだろう。車内で弁当を開けて食べるなんてことはしない生活が普通の、収入の高い人。  ――こんな人に、弁当って……。  気がつかなかったとはいえど、ハウディが作った弁当なんて食べさせていいのだろうか。一般人は普通に食べているが、セレンがいつも口にしているものとは違うはずだ。口に合わないかもしれないと思いはしたが、出したものを引くわけにもいかない。  箸を持ちセレンが手を合わせる。弁当の蓋を開け、パキンと割り箸を割ったセレンが、肉団子を一つ箸でつまんだ。  ゆっくりと口を開けて、セレンが肉団子を口に入れる。数度口を動かして、ごくりと咀嚼するまでの時間がひどく長く感じた。  肉団子を食べたセレンは無言だ。美味いというわけでもなく、かといって箸を止めるわけでもない。 ――無言って、何?  作ったものを褒めて欲しいと思っているわけではない。けれど、何も反応がないのは緊張する。二つ目の肉団子を摘まんでいるから、苦手なものではなさそうだ。 「お兄ちゃん。おだんご、おいしい?」  どう思っているのだろうと考えていたら、ハウディの代わりにアイリスが言った。もしかしたら口に合わないのかも、なんて行動の裏を気にする感覚は、アイリスにはまだないらしい。 「え? ああ」 「でしょー? アイリスも好き」  頷いたセレンが二つ目の肉団子を口に運ぶ。子供用のフォークに卵焼きを刺し、「ぜんぶおいしいんだから」と言って、アイリスは卵焼きを頬張っている。  弁当を食べているセレンに、アイリスがあれこれと話しかけている。年齢や、住んでいるところ、何が好きかなど、ほとんど質問攻めだ。すべての質問に答える必要などないのに、セレンは一つずつアイリスの問いに答えている。ときどき困った様な顔をしているところを見ると、子供の扱いは不慣れなのだろう。 「アイリス。セレンさん困っているだろう? ほら、お話ばかりしてないで……」 「すみませーん。お弁当二つくださーい」 「あ、はい。すぐ行きます!」  セレンとアイリスのやり取りに気を取られていたら、客に呼ばれた。慌ててカウンターに駆け寄り接客に戻る。  ――意外と怖くないのかも。  肉食系の獣人は怖い。ずっとそう思っていたのだけれど、アイリスとセレンが話しているのを見ていたら、不思議な感覚になった。  なんというか、普通に見えたのだ。ハウディや、周りの人間が子供に接するのとあまり変わらないように見えたからだ。 「アイリス、お喋りばっかしてないで、ちゃんとご飯食べてよ」  客に釣銭を渡して、アイリスに言ったら「はあーい」と返事が聞こえた。

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