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第6話

なんだか少し誇らしくなった。けれど、危ないことには変わりない。「ごめんなさい」と頭を下げたアイリスに「もういいよ」と言ったら、アイリスがくるりと後ろを向いて、男に言った。  売り子のアイリス降臨である。 「弁当? ……店があるのか?」 「あ、いえ……、店というほどのものでは……」  言いかけて、言葉を飲み込んだ。  肉食獣、だけれど、アイリスはちゃんとお礼をしたのだ。怖いという感覚を教え込まれていないから、素直なのだろう。相手がだれであろうと、礼はきちんとすべきだ。 「ただのお弁当なんですけど、おひとついかがですか? お礼、させてください」 「いや……、礼ならこの子に……」 「ハーちゃん、抱っこ」 「ああ、はいはい。ちょ、アイリス。髪触らないの! もう……、ぼさぼさになっちゃじゃない」  男に言って、両手を伸ばしたアイリスを抱き上げる。わしゃわしゃと髪の毛を弄られて、額が丸出しになった。重心を移動させて、片手でアイリスを支え乱れた髪を手櫛で整える。 「っ……」 「……アイリス、やめなさい。もー」 「あははっ……」  せっかく整えたのに、またアイリスにくしゃくしゃと前髪を乱された。額の傷が見えないようにしているのだけれど、アイリスにとってはオモチャみたいなものだろう。苦笑いして、男を見る。 「お弁当くらいしか返せないけど、味には自信あるんですよ? あっ……、髪そんな乱れてます? こら、アイリスのせいだぞ?」  飴細工の礼はもうもらったという男に向かってニコリと微笑む。男の視線が頭にあるのに気がついて、髪を手で撫でる。仕返しだと言って前髪をわしわしと乱すと、アイリスが「きゃははっ」と笑った。 「ああ、いや……。なんというか、気を使わせたようだな。……お前、ハー、なんて言うんだ?」 「ふふっ、ハー、なんとか、じゃないんですよ。僕はハウディと言います。あなたは?」  アイリスがハウディのことを『ハーちゃん』と呼ぶから、男はハウディの名を『ハー』なんとか、だと思ったらしい。くすくすと笑って、ハウディは男に言った。アイリスはまだ小さいから、ハウディのことを『ハーちゃん』と呼ぶのだと。 「そうか。俺はセレンだ」 「セレンさん。じゃあ、行きますか? すぐそこなので」  セレンを連れて、車まで戻る。金は鞄に入れているけれど、商品の弁当はそのままだ。早く戻ったほうがいい。 「あ、ハーちゃん! もうおきゃくさん来てるよ?」 「ほんとだ。……あ、セレンさん、これ。狭いですけど、車で食べてて下さい。アイリス、セレンさんと一緒に車にいて」  アイリスのいうとおり、車の前には数名が列を作っていた、店主のハウディがいないから、待っていてくれたらしい。アイリスの分と、セレンの分。二つのお弁当をセレンに渡して、後路のドアを開けた。 「すみません。待たせてしまって。……お弁当、二つですね。ありがとうございます」  並んでいた客に、用意してきた弁当を売っていく。三十分ほど、一気に流れてくる客に弁当を販売して、ハウディは車を覗いた。  ――あ、れ……?  二人ともまったく弁当に手をつけていない。 「……あ、えっと……、苦手なもの、でしたか?」

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