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第5話
「これでよし、っと……、あれ? アイリス?」
いつものように車を止めて、作ってきた弁当を並べる。準備を終えて車を覗いたら、さっきまで折り紙をしていたアイリスの姿が見当たらない。
――うそ……、なんで?
ものの数分。
それほど長い時間目を離したわけではない。毎日一緒に連れてきているし、いつもならアイリスはそろそろハウディの真似をして呼び込みをしはじめるタイミングだ。
平日のランチタイムが近づいている。好立地とは言えないが、ハウディが借りている区画付近もそれなりの人通りだ。
――どうしよう……。アイリス、どこ行ったんだ?
車を放置したままあたりを見回す。アイリスはまだ四つだ。それほど遠くには行けないだろう。
「アイリス! 返事して! アイリス!」
口に手を当てて、声をあげる。
「ハーちゃん!」
数メートル先、人ごみの中でブンブンと手を振るアイリスを見つけて、慌てて駆け寄る。
「勝手にどこか行っちゃだめだろう⁉ 何してるの!」
心配と安心。
両方の感情が湧いてきて、思わず声が大きくなった。
「ふぇ……、うわぁあぁーーん」
「ご、ごめん! おっきな声出して。びっくりしたよね。僕が……」
「またお前か。ちゃんと見ていろと言っただろう?」
ものすごく怒っていると思ったのだろう。くりくりの目に一杯涙をためたアイリスが泣きはじめる。よしよしと頭を撫でて、できるだけ柔らかい口調で話しかけた。
怒っていないのか、と言われたら怒るべきところなのだと思う。けれど、一番いけないのは、目を離したハウディのほうだ。アイリスはまだ小さいのだから。
泣いているアイリスを抱き上げ、あやしていたら、後ろから声がした。
――あ……、この間の……。
数日前、アイリスに飴細工をくれた男だ。
「すみません……。あの、この間はありがとうございます。僕、お礼もちゃんと言えずに……」
「礼なら今、その子からもらったぞ」
「……え? あ、それ……」
飴をくれたとき、まともに礼も言っていなかったことを思い出し、男に謝ると、男は真っ赤な折り紙をハウディの目の前にちらつかせてきた。
――紙飛行機?
「アイリス。これを渡そうと思ったの?」
「うん……。だって、お兄ちゃんアイリスにひつじくれたから……」
抱っこしている間に落ち着いたのだろう。ゆっくりと地面におろして問いかけると、アイリスは大きく頷いた。
アイリスいわく、練習していた紙飛行機をうまく折ることができたから、ハウディに見せようと思って車の外に出たらしい。そのとき、男を見かけて飴のお礼にあげようと思ったのだという。
「ははっ……、そっか。でも、心配するから急にいなくなっちゃだめだよ?」
突然どこかに行ったのは褒めるべきことではないが、もらった飴のお礼をしようとしたアイリスの行動は悪いことではない。むしろ、いいことだと思う。姉が亡くなってから一人で育ててきたけれど、優しい気持ちを持つ子に育ったのは嬉しい。
「……あ、お兄ちゃん、おなかすいてる? ハーちゃんおべんとうやさんなの。おいしいよ?」
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