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第4話

 自らに言い聞かせてはみたが、男の低い声に身が縮んだ。泣いているアイリスを抱き上げ、男に頭を下げる。男の言うとおり、ハウディがちゃんと手を繋いでいなかったからいけなかったのだ。 「いや、別に平気だ」 「本当、すみません。……アイリス、泣かないの」 「だ、だって……」 「ほかのお菓子、買って帰ろう? ね?」  ぐずぐずと泣いているアイリスの背をポンポンと叩き、宥める。新しい飴を買ってあげればいいのだけれど、飴細工は弁当と同じくらいの値段だ。さすがに二個買うのは厳しい。 「なあ、……それ、買ったのはあの店か?」 「へ? あ、はい」 「何の形だ?」 「え?」 「何の形だったんだと聞いている」  アイリスを宥めていたら、男が一歩近づいてきた。かけてしまった飴を見て男が言う。泣きじゃくられて困っているのだろう。眉間にしわを寄せて、男はアイリスを見ていた。男の意図が理解できず、返事にまごつく。 「何の形だったんだと聞いている」 「えっと……」 「……ひつじ」 「わかった。ちょっと待ってろ」 「え……、あ、あの……」  ハウディが答えるよりも早く、アイリスが言った。アイリスの答えを聞いた男が歩き出す。呼び止めようとしたが、男はスタスタと飴細工の店に歩いて行った。  慌ててあとを追いかける。 「ほら、やるから泣き止め」 「ひつじだ!」  男が新しい飴細工をアイリスに向かって差し出す。男の手にある羊型の飴細工を視界に捉えたアイリスが、ピタリと泣き止んだ。 「あ、あの、お金……」 「いい。次は落とすなよ」  男に代金を支払おうと、アイリスを一度下ろして鞄を探る。ハウディが財布を出す前に、男はアイリスに飴を手渡し、歩いていってしまった。 「ひつじ、ひつじ」  新しい飴を貰ったアイリスはご機嫌だ。飴を持っていないほうの手を握って、家路に向かう。 「アイリス、ちゃんと持ってないと、また落としちゃうよ?」 「はぁーい」  くるくると飴の棒を回しているアイリスに注意をして、アスファルトの道を抜ける。ザリッと小石が靴底に擦れる。  肉食獣は苦手だ。  力も強いし、何よりあの狩りをするみたいな目が怖い。じっと見られているだけで、委縮しそうになる。  爪も牙も鋭くて、草食のハウディとは何もかも違うのだ。  ――でも、なんで……?  男の話し方は端的なものだった。子供好きというタイプにも見えなかったし、迷惑そうだったのに、男の行動が理解できない。知らない人間に物を貰うのは好きではないが、仕方がない。男は名前も言わずに行ってしまったのだ。肉食獣だったし、もう会うことはないだろう。  ――まあ、いっか。

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