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第3話

「んーとね、あ……、ハーちゃん、あそこ行こ?」  きょろきょろと周りを見ていたアイリス何かを見つけたらしい。繋いでいた手をぐいぐいと引っ張られる。アイリスが指さす先には、色とりどりの飴細工が並んでいた。  ――飴細工かあ……。結構微妙な値段なんだよなあ。  買えないわけではない。ただ、子供のおやつにしては少々値が張る。けれど、キラキラと目を輝かせているアイリスを見たら、ダメだとは言えなかった。 「一個だけだよ。アイリス、今日頑張ったもんね」  ハウディが言うと、アイリスは店の前で背伸びをしはじめた。柔らかく練った飴を、店主が器用に形作っていく。犬や猫、兎に鳥、さまざまな動物の形をした飴が、小ぶりの台に並んでいる。ハウディは少し屈んで、アイリスの両脇に手を突っ込んだ。 「よいしょっ、と……、ほら、アイリス、見える?」 「うん! すごいねー。なんでもできる?」  店主の動きが見える高さまで抱き上げる。アイリスの問いに、店主が「何を作って欲しい?」と返事をする。 「……うーん。ハーちゃんとアイリスとおなじ、ひつじ」 「ひつじな。よし、わかった。ちょっと待ってな」 「わぁーい。そっくりにしてね」 「はいはい。任せときな」  真っ白い飴を掬って、店主がハサミで切りこみを入れる。一分足らずで、丸い塊だった飴は、もこもこした毛におおわれた絵本の羊に姿を変えた。 「ひつじ、ひつじー。見て、ハーちゃん、ひつじだよ」  店主から飴を受け取ったアイリスを地面におろして、代金を支払う。「すごいよねえ」と楽しそうに飴を眺めているアイリスに向かって、「そうだね。そっくりだ」と返事をした。  店の前から歩き出したアイリスは、出来たての飴細工を片手に、スキップみたいな歩き方をしている。みたいな、と言ったのは、まだうまくできていないからだ。どうにも難しいらしく、右足と左足のテンポがばらばらである。 「アイリス、ちゃんと前見て歩かないとぶつかるよ」 「きゃっ……」 「ん? な、おいっ! 平気か⁉」  ハウディが注意したのとほぼ同時に、アイリスが人とぶつかった。ぽてん、と尻もちをついたアイリスの手から飴細工が離れ、地面に落ちる。ぶつかった衝撃で、ひつじの飴がパリンと割れた。 「すみません! ほら、アイリス、立って」  地面に尻をつけているアイリスを起こし、服を手で掃う。道に転げた飴には砂がついていて、もう食べられそうにもない。けれど、そのままにしておくわけにもいかない。飴を拾って顔を上げ、ぶつかった人物に謝ろうとして固まった。  真っ黒の髪に、青みがかった虹彩。  鼻筋の通った彫の深い顔立ちと、ハウディよりも十センチは大きな体格。  一目で、相手の男が草食獣人ではないと気がついた。まっすぐにハウディを見ている目は、肉食獣のそれだ。思わずビクリを身体がすくむ。アイリスと一緒でなかったら、逃げ出していたかもしれない。 「うわぁああーーん」  数秒遅れて、アイリスが泣き出した。転んだ驚きと、飴を落としてしまったショックが原因だろう。 「子供の面倒くらいちゃんと見ておけ」 「す、すみません。あの、服とか……、えっと汚れてないですか?」  高い位置から見下ろされて、声が震える。  ――大丈夫。舗装されている地区まで来てる。怖くない。

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