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第2話
ハウディ一人で作って販売しているのだ。個数にも制限がある。それでも、できるだけたくさん売らないと暮らしていくことはできない。車の維持費だってかかるし、アイリスはもうすぐしたら学校に行くことになる。お金がないから、なんて理由でアイリスに不自由な思いをさせるわけにはいかない。
「アイリスもお手伝いする!」
ゴソゴソと社内から出てきたアイリスが、「おべんとう、いかかがですか?」とハウディの真似をして呼び込みをはじめた。
「ふふ、可愛い呼び込みさんね。一ついただけるかしら?」
アイリスの声に女が二人足を止めた。スーツ姿の女が微笑み、弁当の一つを指さす。
「ありがとうございます」
女に弁当を渡して代金を受け取る。売れたことが嬉しいらしい。アイリスが横でぴょんぴょんと跳ねた。
「えへへ。いっぱい売って、おやつ買ってもらうの」
「へえー。お手伝いしてえらいわねえ」
ご褒美をくれるから頑張るのだと、アイリスが客の女に向かって言う。よしよしとアイリスの頭を撫でる女に、ハウディはぺこりと頭を下げた。
十四時すぎ。
ランチタイムが終わって、ハウディはカウンターを片付けはじめた。
パック詰めした弁当はなんとかすべて売り切ったが、おかずは少し残っている。それでも、売れ残りがないだけマシだ。
「おべんと、ぜんぶないねー」
「そうだね。アイリスが頑張ったからだよ。ご褒美あげないとね」
看板やテーブルを片付けて車に積み込み、アイリスを車に乗せて走りだす。
アスファルトの道を抜けて、砂利道を走り、駐車場にワゴンを止めた。台車に残ったおかずと発泡スチロールの箱を載せて、アパートのドアを開ける。おかずが入ったタッパーを冷蔵庫に押し込んで、冷蔵庫の中身を確認する。
――明日は、何にしよう?
何種類もの弁当を作れば、もっと売れるのかもしれない。けれど、冷蔵庫も大きくないし、売れ残りが出たら損失が大きくなる。余ったおかずはアレンジして家で食べているけれど、できるだけ無駄は省きたい。
「ハーちゃん、まだ?」
「ああ、ごめんごめん。行こうか」
考えながら冷蔵庫を覗いていたら、アイリスに服を引っ張られた。冷蔵庫の扉を閉め、アイリスの手を取る。扉を開けて、約束の菓子を買いに外に出た。
砂利道を歩いて十分ほど。アスファルトの舗装が出てきたあたりで、小さな商店が並ぶ道を歩く。
子供を間に挟んで手をつないで歩く家族。幸せそうな姿を、思わず視線で追った。
ハウディの歳なら、恋人くらいいてもいいのだろう。けれど、子連れの草食獣人が相手を見つけるのは難しい。ハウディだって、興味はあるのだけれど、今は生きていくので精いっぱいだ。
姉がハウディを守ってくれたように、アイリスを守るのだと決めた。せめてアイリスが成人するまで、親代わりをしっかり務めてみせる。生活に余裕はないが、食べていけないほどではないし、アイリスを連れているからか、子連れの弁当屋だと噂が広まっている。姉のあとを継いではじめた頃は売れ残りも多かったが、今はなんとか完売できているのだ。
「……? ハーちゃん?」
きゅっと手を握ったら、アイリスがきょとんとした顔でハウディを見ていた。
「なんでもないよ。アイリス、おやつは何にしようか?」
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