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story 1
【登場人物】
・羅不仰…攻め。チンピラ風の町人。武人に対する劣等感が強い。繊細。
・旅人……受け。江湖を旅する侠客。本来は男体だが、訳あってシーメール化したりふたなり化したり女体化したりする。
・弟子……攻め。今回は不在。
【用語】
・江湖…武人たちが生きる社会。
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羅不仰は山麓の街で育った。万年雪が見えるその山々は、地元の人々の信仰対象となっているだけでなく武者修行を行う一部の江湖人の間で有名な場所であったため、街は武芸者たちが落としていく金で自然と栄えた。客桟や酒場を営む者、山案内などは食うに困らない安定した職であったが、黙っていても儲かるためか接客の質は次第に落ち、真心を持って働く者は少なくなっていった。
不仰は、街へやってくる武芸者たちのことが好きではなかった。自分とは別の世界に生きている彼らはいつも自由で、強く、目には見えないが美しい矜持を持っている。それが無味乾燥な毎日を過ごす自分への当てつけのように思えて、嫌だった。
そして物心ついた頃から舎弟を従えていた彼は、自分には王になる素質がある───と、ある歳までは本気で思っていた。しかし宿に泊まった小柄な剣士に勝負を挑み、見事なまでに大敗すると、彼ら江湖人に真っ向から挑むことを諦めた。代わりに相場よりも数倍高い酒代をふっかけたり、難癖をつけたり、泥酔させたりと姑息な手段で己の欲望を満たすようになった。
自分には奴らを出し抜く力がある、ということを弟分たちに誇示してやれるのなら、手段はなんだって良かった。
そんな彼は成人しても相変わらずだった。
客桟で昼間から弟分たちと酒をあおり、気に入らない旅人を見かければちょっかいを出す。
この日もそんな風に過ごす───はずだった。
「ぶっ!!!!!!!!」
不仰は、客桟に入ってきた人物の姿を見ると、口に含んでいた酒を盛大に噴き出した。
黒い布を垂らした笠を被っているその者は、繊細な銀細工が施された剣を佩いており、一目で武芸者と分かるいでたちだ。黒布は僅かに透けているが、肌の色が白いことが分かる程度で、どのような顔をしているかまでは分からない。
しかし不仰の目に飛び込んできたのは、服装や装備品ではなかった。
───服にほとんど収まりきっていない、膨らみすぎた饅頭のような、巨乳。
隠すのを諦めたのか他者に見せつけているのかは定かではないが、少なくとも不仰は服から溢れ落ちている胸など未だかつて見たことがない。幼い頃から、男女問わず様々な旅人を見てきたが、これほどの女は記憶にない。
品行方正とは真逆を行く───年頃の男である不仰に、あまりにも主張が強いその身体の一部を「無視しろ」という方が無理な話だ。
普段は接客などの雑務は下っ端に任せている不仰だが、酒杯を机に置くと、即座に話しかけに行った。まるで、その客へ吸い込まれていくかのように。
客の前に立った不仰の目には「それ」しか映らなかったが、少し離れたところから見ている舎弟たちは、兄貴分より客の背丈の方が大きいことを、はっきりと認識できた。
「うひゃあ、すっっげ、何もかもデケェぞ!!あの女」
舎弟の一人が下品な笑い声を上げながらそう呟いたが、不仰の耳には届かなかった。
近くで見るとただただ圧巻である。大きなだけではない、極上の柔肌。これを両手で好きなだけ、餅のようにこね回したら、さぞ……。
下半身に熱が集まっていくのを感じながら、不仰は深い息を吐いた。嘲るような笑みを浮かべ、ようやく話しかける。
「女侠さんよ……こんな真っ昼間から身体を売りにきたのかい?貧乏っつーのは大変だなァ」
顔が見えない旅人は、淡々とした口調で答えた。
「私は女ではない」
その言葉を聞いた舎弟たちは一瞬ぽかんと停止したあと、子供のように笑い転げたが、不仰だけはやれやれと首を横に振った。
「おいおいおい、女侠さん。そのご立派な身体が女じゃないってんなら何なんだ? えぇ?」
不仰は目の前の豊満な胸を見下し、指先で軽く弾いた。侮辱が込められたその行為にも旅人は動じず、ぷるんと揺れた質量に、むしろ不仰の心の方が揺さぶられることになる。
───決めた。この後、すぐにでも部屋へ連れ込んで、抵抗するようだったら酒を飲ませて動けなくしてやろう。今日はこいつの身体で好きなだけ遊んでやる!
不仰の下品な妄想を知る由もない旅人は、平然とした態度で返答する。
「私は男だ。訳あってこのような姿になっているが、きみが気にすることではない」
「このような、って………くくくく!!もっとマシな嘘つけなかったのかよ?デカ乳見せびらかしといてそりゃねーぜ」
「嘘ではない。確かめさせてやろう」
「あぁ?」
旅人は、不仰の腕を突然掴んだ。そして彼の無防備な掌を……自分の股間へ押しつけた。
───ぎゅっ。
不仰は触れたその部分が何であるかを知っている。両足の付け根にあるそれは紛れもなく、自分の股間にある物と、同じ……。
「お………男!!??????」
「そう」
咄嗟に悲鳴のような声を上げると、旅人は頷いた。それを見ていた無神経な舎弟の一人が「ぷっ」と吹き出すともれなく全員がげらげらと笑い始めたが、不仰は呆然と固まったままだった。
そして我に返った彼が、面子をこれ以上ないほど汚されたと自覚する頃には、旅人は既に客室へと上がっていた。
「あ、あは、兄貴!! アハハッ、やられちまったなぁ!! まぁ飲もうぜ!!ひひひっ、はははは!!!!」
「兄ィ、お注ぎします!!あ、先に、ふふっ、手ェ洗って来た方が……うくくく」
「いや、あんなの見抜ける方が無理だって!いやー災難っしたね。元気出して…ひひひっ…!!ください……」
自分に同情するどころか上機嫌に盛り上がっている弟分たち。情けないやら悔しいやらで、不仰の感情はぐしゃぐしゃに乱れた。
「あ、あ、あの野郎………舐めやがって………!!!」
やがて屈辱に耐えきれなくなった不仰は、扉を蹴り、表へ出ていった。
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街のはずれの静かな木陰で、不仰は酒を片手に呆けていた。
あの旅人にどうやって報復してやろう。武人に正面から勝負を挑んでも無駄だ。そうだ。山に入って毒きのこを採り、夕食に混ぜて身動きできないようにしてやろう。その後、たっぷりと、あの身体を───。
「…………………」
かの者の胸元を爪弾いたほうの手を開き、じっと眺める。指先で、ぴんっと小突いたときの、あの感触。ぷるんっと揺れた、あの感じ。あれは極上の……。
いや、あれは一旦忘れろ。それよりもどう報復してやるかを考えろ。この俺に恥をかかせたことを後悔させてやる。武人に真っ向から挑んでも無駄だ。とりあえず、そうだ、山に入って毒きのこを───。
不仰が同じことを延々と考えている間に太陽は沈み、街の中心部では賑やかな夜が始まろうとしていた。
彼が復讐の計画を練り終える頃、辺りはすっかり暗くなっていた。結局山に入ることを諦めざるを得ず、不仰は客桟へ帰ることにした。
自分の顔を見たら、弟分たちは昼間のことを思い出してまた笑い転げるかもしれない。そう考えただけで気が重かった。
客桟の扉を開けた不仰は誰の顔も見ないようにして、二階の客室へ一直線に向かった。
乱暴に戸を開けると、例の旅人がそこにいた。
しかし───。
「な…………」
坐禅を組み瞑想をしているその男は、確かに昼間と同じ服装だ。しかし、どういうわけか「あれ」がない。
あの圧巻の巨乳が───どこにもない!
「ど、どうなってる!!?さっきのは幻術か何かか!??」
「何の話だ」
旅人は目を開け、不仰の方を見る。昼間は見えなかった顔が、不仰の視界にはっきりと映った。
白い肌に涼やかな目。整った顔立ちは男と言われれば男に見え、女と言われれば女にも見える。歳は二十歳か少し上くらいに見えるが、当てにはならない。修行を積んだ江湖人の多くは、実年齢よりも遥かに若い外見をしているからだ。
しかしそれらの情報はどれも、不仰にとって重要ではない。
「身体がさっきとは違うじゃねえか!!!」
「ああ……気にするな」
とぼけているのか、軽くあしらわれているのか。ともかくその態度に苛立った不仰は、益々声を荒げた。
「てめ……っ、もう一度あのデカ乳を出しやがれ!!」
「すぐには無理だ」
「何でだよ!!」
「気の比率が乱れれば自然とああなる。胸が必要なら、暫し待て」
「必要?いや……待てって、なんだ、お前さては頭がおかしいのか???……」
「私の胸を触るためにわざわざ来たのか?」
女の身体ごときに執着していると思われたくなかった不仰は、即座に否定する。
「はっ、そんなわけあるか。巨乳を揉ませてくれる女なんざ掃いて捨てるほどいる。それよりも、お前のせいで俺は兄弟たちに笑われたからな……借りはきっちりと返してもらうぜ」
「笑われた? 私のせいで?」
「そうだ。お前が……」
昼間受けた仕打ちのことを思い出し、不仰は語るのをやめる。詳細を語ればあの股間のモノの感触まで蘇ってくるようで我慢ならなかった。
「ともかく、お前のせいだ」
「そうか。気にするな」
「…………………」
気力が奪われるような会話に疲れた不仰は、閉口してその場へ座り込んだ。特に話すことがなくなると、旅人は瞑想を再開した。
不仰は、その姿をぼんやりと眺めながら、この男を一体どうしてやろうかと考え始めた。
何らかの手段で抵抗できない状態にし、あの豊かな柔肌を心ゆくまで弄ぶつもりで、この部屋へ入ったが───目の前にいるのは、平らな胸をしたただの男だ。男の身体を弄んでも何も面白くない。というかそんなことをして弟分たちに知られでもしたら「兄貴は女より男がいいらしい」と陰で噂され、笑われてしまうかもしれない。
この男は先程、胸を触りたいのなら少し待つように言っていた。その言葉を信じて、大人しく待つべきなのだろうか。しかしそれではなんだか、自分がこの男の言いなりになったみたいではないか?
今重視すべきなのは、自分が何をするかではなく、どうしたらこの男に"わからせて"やれるか、だ。
(………。顔、気にいらねぇな。澄ました面しやがって。江湖の奴らはいつもそうだ。俺たちなんて眼中にないって顔で……)
不仰は、瞑想中の整った顔を見つめる。
仮にこの顔が恥辱を湛え、自分を睨みつけたら、どうだろう。取るに足らないと思っていた一般人から汚される屈辱を与えてやったら───この顔はどれほど美しく歪むだろうか。
(……悪くねぇ)
不仰は淫猥な妄想の中で旅人の顔を歪ませ、少しだけ良い気分になった。この男の身体そのものに欲情はしないが、この男の身体を使って己の支配欲は満たせるはずだ。
「……おい、お前。俺のチンポをしゃぶりやがれ。そうすれば昼間のことは帳消しにしてやる」
「ん?」
「あ?」
「どうして?」
「つべこべ言うな。黙って従え」
「そうか。陽の気が補えるなら私としても有難い」
「はっ???」
辱めを与えるつもりで命令したはずが、想像していたものとは真逆の反応が返ってくる。不仰は唖然と、目を丸くした。
「よう……何だって??? 有難いって、何が???」
これまで端的な回答ばかりしていた旅人だが、江湖とは無縁の不仰にも理解できるよう、順序立てた説明を始めた。
「人はみな陰と陽、双方の気を備えて生まれてくる。それらは通常、増えたり減ったりすることはない。死ぬまで均衡を保ち続ける」
「???」
「しかし私は訳あって陰陽どちらの気も使い果たしてしまった。寝ることで僅かに……肉体を維持できる程度には溜めることができるが、陰陽の割合が安定しない。ゆえに男の身になったり女の身になったり、どちらともいえる状態になったりする。分かったか?」
「え? あー、あぁ……??」
不仰は耳に入ってきた断片的な情報をなんとか繋ぎ合わせ、理解できたということにした。
「つまり、お前の性別?は……日替わりみたいなモンなのか?」
「まぁ、そんなところだ。気は睡眠や瞑想で回復するよりも、他人から直に貰った方が手っ取り早い。よって、きみの陽物に触れるのは、私にとっても都合がいい」
「ちょ、ちょっと待て。俺のチンポをしゃぶれば……お前は得をするのか!?」
「そういうことになる」
「…………それは、いや、それはなんか違うな……クソッ、どうしたら……」
「?」
自分のものをしゃぶらせ、屈辱的な思いをさせてやるはずが、むしろ人助けになってしまうということを知り、不仰は苦悩した。生まれてこのかた衣食住に困ったことがない彼は、頭を使って苦難を乗り越える機会に恵まれなかったため、慣れない思案にうんうん唸った。
一旦弟分たちに相談し、妙案を出させるか?───いや。ただでさえ今日はさんざん笑われたのだ。これしきの苦難すら自力で乗り越えられないのであれば、兄貴分としての顔が立たない。
(自分で考えて……やるしかねぇ!!)
不仰は決断を強いられた。
一つ目の選択は、この妙な旅人に己の一物を咥えさせることで刹那的な優越感を得ること。この平然とした態度の男に自分の男根をしゃぶらせ、ねじ込み、奉仕させ、種汁を一滴残らず飲ませ……。この顔を雑巾のように使ってやれば、さぞ気分がいいだろう。
いやしかし、それをこの男は「有難い」ことだと言った。陽物に触れることでこの男の気は安定し、身体が女体化するのを防げるのだという。この男が求めていることをわざわざしてやる道理はない。むしろ、辱めてやりたいのだから自分の希望とは相反する。
やはりここは第二の選択肢───この男の上半身が女体化するまで待って、それからとことん嬲ってやる方を選ぶべきだろうか。昼間触れた時の、あの感触。あれがどうしても忘れられない。あの至高の豊乳を好きなだけ揉んだという実績を作れば、舎弟たちも羨望の眼差しを向けてくることだろう。
それにどれだけ達観した者であろうと、身体を弄ばれたら良い気はしないはず。玩具のように扱い、嬲り、いたぶってやったら、今は平然としているこの男も恥辱を顔に浮かべるかもしれない。
不仰は選択を迫られていた。
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今すぐしゃぶらせる方を選ぶ
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少し待って揉みしだく方を選ぶ
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もう少し考える
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