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【第一部】第1話:落ちる
暗闇で暴れる獣のようだ、というのが第一印象だった。
その手数の多さに、周囲の客が千手観音みたいだとか囁く中で俺はしかし、自分の認識の誤りに気づく。
その眼。
汗だくになってライトブラウンの短髪から汗が飛び散る姿は、確かに獰猛な獣のようだったけど、その眼はどこまでも冴えていて、冷静で、お世辞にも上手いとは言えない他のバンドメンバーの様子を俯瞰しているようだった。
ギターが走ればおさえ、ヴォーカルがもたつけば引っ張り、ベースが自由に弾けるよう計算して叩いているように、見えた。
さらに言えば、俺の邪推かもしれないけど、どこでどう叩けば客に受けるか、どう盛り上げるか、どう叩けば他のメンバーが活きるか、それすらも操っているかのように思えた。
まだ俺と同じ16歳にも関わらず。
たまたま友人に誘われて立ち寄ったイベントで出くわしたバンドだった。友人に聞いてみると、
「え? 結斗 、知らねえの?」
と驚かれた。
「メインは大学生だけど、ドラムは北高の三津屋 アキラだよ。あのスーパードラマー」
三津屋アキラ。
この地域で音楽をやってる人間なら知らない奴はいない。
俺だって、名前とその活躍っぷりは聞いていた。中学の頃から高校生や大学生のバンドのサポートで叩いたり、或いはインディーズバンドのサポートもギャラを受け取ってこなしていたりする、まさに『スーパードラマー』。
気づくと俺はゆっくりとステージにふらふらと引き寄せられていた。
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