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第2話:温度差
最後の曲の最中、汗だくの三津屋アキラの左手から、ドラムスティックが滑って客席に飛んだ。
思わず手を伸ばすと、それは小柄な俺の手のひらの中にあった。掴んだ感触もなかった。三津屋アキラは瞬時に予備のスティックで叩き続け、演奏を終えるとすぐに立ち上がり、大学生三名になど眼中にない様子でステージからはけようとしていた。
最後に客席に向けて会釈をした。
それもまた、ぞっとするほど凍てついた眼。
でも、俺の手の中にあるスティックはこんなにも熱を帯びている。
訳の分からない動悸に襲われ、次のバンドのためのセットチェンジが始まっても動かない俺を、友人が不審に思って連れ戻しに来てくれた。
「結斗、大丈夫か? あ、おまえ三津屋のスティック取ったんだな」
「え、あ、うん。俺ちょっと気分悪いから帰るわ」
「おい、どした? マジで顔色悪いぞ」
「うん、平気平気」
そう、平気。
ただ、一目惚れってのが初めてだっただけで。
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