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第16話:天然天才アマデウス、本領発揮
「三津屋くん、また走った」
「え?」
「あとフィルが前半もたついた。ちゃんと叩いて」
二十分後、近隣の小さなスタジオの地下ブースで、俺とアキラは水沢タクトという野性の天才アマデウスっぷりに圧倒されていた。
「あと須賀くん、『I’m not the only one』の『the』と『ly』の発音が酷すぎる。もっとちゃんと発声して。それからヴァースはもっと青にして。今のじゃ黄色すぎる。もっと群青色にしたい」
曲はとりあえずさっき俺が口ずさんだ「Rape Me」になったんだが、タクトの指示は全く意味が分からなかった。
「あの、水沢くん、群青色ってどういう意味かな……?」
「聞けば分かるでしょ! この曲はそういう色じゃん! 分からなかったら自分で考えて。頭使って。あと声量あるのは分かったからメリハリ付けて。ずっと大声聞かされると疲れる」
啞然。
後日、俺たちはタクトの『共感覚』について知って、それをタクトから解説してもらい、時間をかけてその指示を理解することになるのだが、初の音合わせでここまで細かく、厳しく、その上意味不明なダメ出しを食らうのは初めてだったから、とにかくタクトの指示に死に物狂いで従うばかりだった。
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