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第28話:秘密基地

 俺の親は放任主義というか、中学から俺がベースとバンド活動を好き勝手やってきたので、外泊やら何やらにはあまりうるさくない。  まあ流石に何日も家に帰らなかったり、折角入った大学で授業を全く受けなかったりしたらまずいので、最低限の授業には出席し、アキラのことは曖昧に、バンド始めて忙しくなるから外泊が増える、とは告げた。  問題は金銭面だった。スタジオ代や楽器のメンテなんかは案外馬鹿にならない。  部活棟の四階の部室は一応防音だが、タクトもアキラもそこでは練習する気が無いようで、もう受付の人に顔を覚えられた例の地下ブースのあるスタジオにばかり行っている。  タクトはこう言った。 「僕はね、一応タダで曲書いてあげてたんだけど、半分くらいの人が、『これはお金を払わないといけないくおりりーです!』ってお金くれてて、それ貯めてるから多分大丈夫」  と、あっけらかんと言ってのけた。つか『クオリティ』は言おうぜタクト。 「へぇ、どんくらいあんの?」  アキラが聞くと、タクトはスマホを取り出し、おそらくは銀行関連のアプリを起動したのだろう、そして、 「えっとね、32に0が4つ」  俺とアキラが一瞬考え、次の瞬間飛び上がった。 「320万?!」 「あ、そんなにあるんだぁ」 「だぁ、じゃねんだわ!」  半ばキレ気味のアキラに、タクトが聞き返す。 「二人はどうなの? お金ないと練習できないし、ちゃんとしたスタジオでレコーディングもできない。まあライブはまだ先だろうけど、お金はあった方が良い」 「……お、俺は、皆無。バイトするわ……」  俺がうつむき加減で言うと、 「いや、結斗の分は俺が持つ」  とアキラが言い放った。タクトが少し眉を上げる。 「自分で言うのもアレだけど、俺んち金だけはあるから。それに俺が住んでるマンション全室防音だから、適当に理由付けてバンド用に一部屋がめてもいい」  俺は驚いてアキラの顔を見た。 「え?! あの部屋賃貸じゃないの?!」 「言ってなかったっけ? あのマンション俺の親のなんだわ」 「秘密基地——!」  突然ウキウキした声をあげたのはタクトだった。 「リアル・ガン・フォックスの秘密基地作れるね! 楽器とか機材全部置いて、入れるの僕たちだけにして、こっそりそこでいっぱい練習して、僕もいっぱい曲書いて、うわぁ〜楽しそう!!」 ……やっぱりこいつは年中さくら組の幼稚園児だ……。

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