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第46話:リアル・ガン・フォックスのリアル
ゆぃちゃん@xxxx
Real Gun Foxの初ライブ見てきたー! Vo.&B.の子が残念。でも三津屋アキラは何度見ても凄いし、本物の水沢タクトがひょろひょろしてる普通の人で逆にびっくりww
たかすけ@xxxx
#リアガン 見たぞー! 何年も三津屋見てる俺としては、あいつちょっとフロンマン心配しすぎな印象受けた。で、肝心のフロンマンは緊張しすぎで自爆。水沢タクトは作曲家としてもやべーけどギタリストとしてもヤバかった!
Fell FREE@xxxx
三津屋と水沢にはがっかりしたわ。最強コンビって超期待してたのに、なんでボーカルにあんなん選んだの? 正直萎えた。声は悪くなかったから、ボーカルに専念させてベーシスト加えて続投、とかなら、また見てもいいかも。
のーいぼ@xxxx
ぶっちゃけ話題性で言えばポッピンより#リアガン の方が高かったライブだったけど、いかんせんヴォーカルがアレじゃなぁ〜。他の奴らも書いてるけど、ベースかヴォーカル、どっちかに専念させるべき。っていうか#彩瀬タケル が彼女と見に来てたって本当?
——やっぱり、俺じゃ無理、なのかな。
「おい! 何見てんだよ!!」
運転席のアキラが叫び、俺のスマホを左手で叩き落とす。
「没収です!」
後部座席に座っていたタクトが手を伸ばし、俺のスマホを奪った。
結局俺たちは、ポッピンさんたちとの打ち上げには行かなかった。通常ライブ終了後、ライブハウスで軽い打ち上げをしてから居酒屋なんかに行って本格的に飲み食いするんだけど、俺らはハコでポッピンのメンバーさんに感謝を伝えて、ポッピンの人たちも察してくれたみたいで、今は三人で帰ってる最中だ。
「これ、僕反対!」
「あ?」
俺のスマホを見ていたタクトが叫び、見えないアキラが声を上げる。
「ユウくんをベースかヴォーカルのどっちかに専念させるべきっていう意見が多い。でも、それはダメです却下です!」
「え……?」
俺は驚いて顔を上げた。てっきりタクトはこの意見に同意すると思っていたからだ。
「俺も反対」
「アキラまで……」
「ユウくんはベース弾けるから歌える。歌えるからベース弾ける。どっちかいっこじゃできない。ベースラインを体感しながら歌うから歌にグルーブが出る」
「タクトの言う通り。編成に変更は無しだ。問題は、結斗が人前に出て、フロントマンとしてパフォーマンスするのに慣れること。軽音の連中の前ではやりにくいだろうから、どっか適当に路上でもライブバーでも、もっと敷居の低い所から始めよう」
「路上弾き語り〜!! 僕ずっと憧れてた〜!!」
俺はもう今夜何度目か分からない嬉し泣きをしていた。
クビになってもおかしくないような大失態をしたのに、この二人は——
「結斗」
車がマンションに近付いて、そろそろ駅前でタクトを降ろす頃、アキラが低い声で俺を呼んだ。
「おまえ、今夜のライブで一番失敗したのは自分だと思ってるだろ」
「え、当然じゃん! ヴォーカルなのにほとんど歌えなかったんだよ?!」
「タケ兄の意見は違ったみたいだぞ」
「ターカルさんが?」
タクトも身を乗り出す。
「俺が、俺の出来はどうだったかって聞いた時、タケ兄答えずに帰っただろ? アレって、タケ兄的には『答える時間も無駄、自分で考えろ』っていう意味なんだ」
車内に沈黙が落ちた。
「ん〜、正直に伝えるとね、アキラくん。ここにも、アキラくんがユウくんを心配しすぎてたっていう感想が書いてある」
「そう、俺も終わってから気付いた。だから結斗、不幸自慢じゃねえけど、頼むから自分がリアガンの初ライブを失敗させたとか思わないでくれ。じゃ、タクト、この辺で降りるか?」
「そうする〜またね〜!」
バタバタと荷物を抱えてタクトが下車し、俺とアキラは二人きりになった。
「さっきは帰ったらめっちゃ抱くって言ったけど……」
アキラが前を見ながら車を出す。
「結斗、おまえにはそれを拒否する権利だってあるんだぞ?」
——心が、ひくついた。
「なんで……なんでそんなこと言うの、アキラ……? なんで今言うの?」
「わっかんねぇ。今おまえとしたらマジでおまえを壊しそうな気がする。自分が何をするか分からない。俺は——自分が恐い」
「じゃあ俺が襲う」
「何を——」
「俺だって、音楽的な反省と今後の対策はしっかりやりたいけど、恋人と愛情確認する時間だって欲しいよ! 俺を壊す? やればいいじゃん! やれるもんなら! 俺の頭は16歳のあの日から三津屋アキラにぶっ壊されてるんだから!!」
車が急停止した。アキラが俺の首を掴みぐっと引き寄せてキスをよこした。少しだけ舌が絡む。
「カーセックスは、嫌だな。早く帰ろうよ」
「そうだな」
また、車が前進する。
俺も、アキラも、そしてタクトも、前進する。
【第一部 完】
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