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第45話:本当に敗北したのは

 アウトロまでベースを弾ききって、最後の音を弾いた俺のピックはそのまま落下した。  拍手があったかどうかかも分からない。  とにかく一礼して、俺は袖に戻った。  アキラが「ありがとうございました! リアル・ガン・フォックスでした!」と俺の代わりに言ってくれたのは聞こえた。  俺は楽屋のドアの前で棒立ちしたまま動けなくなっていた。 『Real Gun Fox様』  という張り紙を、俺は直視できなかった。 「結斗!」 「ユウくん!」  思わず身をビクリと縮めた。  スーパードラマー・三津屋アキラ。  天才作曲家・水沢タクト。  こんなに凄い二人に、俺は泥を……。 「ごめん……」  アキラの顔もタクトの顔も見られず、俺はその場にうずくまって、頭を抱えた。 「結斗、顔上げろよ」 「ユウくん」  「ごめん……本当にごめん俺、なんて、詫びたらいいのか……」  次の瞬間、誰かが何かで俺の頭をすぱこーんとはたいた。  思わず顔を上げると、それはアキラではなくフライヤーの束を持った水沢タクトだった。 「泣けるパワーが残ってるなら、反省会だよ! あとね、詫びるとか意味分かんないこと言うのやめて。謝罪とか求めてないから。時間の無駄だから」 「……え?」 「おまえ、珍しくまともなこと言うな、タクト」 「僕は合理主義者なだけ」 「結斗、あの状態でよく最後まで投げ出さなかったな」  アキラは俺の手を引き立ち上がらせた。 「最後のシャウトは凄かった。俺は肯定派」 「え、いや、俺もうダメだと思って、もうやけになってあそこは——」 「だーかーらー終わったことの裏話とかどうでもいいから。次のこと考えよ。とりあえず着替えて、撤収準備と——」  アキラとタクトがきびきびと動く中で、俺はさっきとは別の意味で棒立ちになってしまった。  二人とも、俺の失態を全く責めたりしないで……。  普通もっと怒るだろ、何なら降板させてメンバーチェンジすらするだろう。  なのにこの二人は……、そこまで俺を買ってくれているのか……。 「おい結斗、おまえも動け!」  アキラにバンッと背中を叩かれ、一瞬耳許で、 『今夜は反省会としてめちゃくちゃ抱くからな』  と囁かれて飛び上がった。 「お、リアガンご一行発見! おつかれ〜」  俺たちが楽屋から出ようとした時、ちょうど彩瀬タケルさんが姿を現した。 「え、タケ兄、今日レコーディングじゃなかったっけ?」 「ドタキャン食らってね、だったらおまえらの初ライブ来ないわけないだろ」  俺は青ざめていた。あれだけ見てもらって、アドバイスをもらったりもしていたタケルさんに合わす顔がなかった。 「結斗くん」  硬直した。タケルさんの声が優しすぎて。 「俺の初ライブよりはマシだった、とだけ言っとく。これからだよ。じゃ、悪ぃ、ツレ待たせてる。またキツネさんち行くからな! タクトも良かったぞ!」 「わーい! あ〜りがとうございます〜!!」 「おい! タケ兄、俺は?!」  アキラが叫んだが、タケルさんは振り向きもせず片手を挙げてそのまま搬入口から出て行ってしまった。

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