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第44話:敗北

 眩しい——  眼、眼、眼、顔、顔、顔——    物凄い数の眼と顔が俺を見ている——  俺、俺は——  思わず振り返って、オーディエンスに背を向けてしまう。    アキラが見たこともない形相で口を動かしている。  タクトが寄ってきて耳許で叫ぶ。 ——ユウくん! 歌って——!  え、俺、え、ベースはずっと弾いてるのに——  歌は俺の、俺の声を聞かせないきゃ、届けなきゃ——  視界の隅にキラキラとした星のようなものが現れて、それに起因する目眩の中、それでも俺はもう一度マイクスタンドに戻り、Bメロを歌った。    歌った? ちゃんと発声できてたか?  サビは絶対に歌った。いつもより声を張って、ちょっと乱暴になったかもしれないけど、最後の一声と共にスラップを決めるところはやり切った記憶はある。  だけど真下を向くしかなかった。  被害妄想かもしれないけど客全員が俺を嘲笑っている気がして。 「ユウくん、残り行ける?」  タクトが寄ってきて耳許で聞いてきた。 「うん、やり切ってみせる」  そう、あと二曲ある! 投げ出したくない!  自分でそう気合いを入れたんだけど——  二曲目はほとんど記憶にない。  ミドルテンポの、俺の声の良さを出すためにタクトが書いてくれた曲だ。  アキラの安定したドラムが、俺のベースラインと落ち着いたメロディーを支え、タクトの通奏低音的なギターがトリッキーな曲。 ——でも俺はあのメロディを、ちゃんと声にしていただろうか?  俺はもう、オーディエンスの盛り上がりや歓声を察知できる感性が残っていなかった。受けているのかシラけているのか、知りたくもなかった。  とにかくあと一曲やり切って、ステージから降りたかった。  最後は水沢タクトの趣味全開カオス曲だ。  ベースもうねりまくりギターもぎゃんぎゃん、ドラムもアキラが野生動物みたいに叩くやつで……  え?  お客さんが俺を見てない気がする……    あ、あ、ダメだ、歌わなきゃ!  最後の大サビで、特に高音で歌うパートを俺はほとんど吠えるように叫んだ。声がひっくり返った。  終わった。

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