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第43話:出陣

 思わず、小声でそう呟いてしまった。  アキラとタクトが俺を見遣る。  ボディが黒い五弦ベースを手に取り、ストラップを掛けて一番つまづきやすい箇所をゆっくりと弾いた。 「早えよ、結斗」 「でも——」 「ステージに上がって、ライトを浴びて、歓声上がったらそれに応じて、マイクスタンドに立って最初の音を歌い出す瞬間でいいんだよ。もっかい言うぞ? おまえの後ろには俺がいる。横にはタクトがいる。俺らを信じろ」  俺はこくこくと頷いた。  大丈夫、大丈夫。  こんなに心強い二人がいるんだ。  大丈夫、俺はやれる。 「リアル・ガン・フォックスさーん、そろそろ上がってくださーい」    ◇ 「俺は普段ステージに上がる時、円陣組んで気合い入れたりはしないタイプなんだが」  アキラが袖でスティックを持ってそう言った。 「今日ばかりは別だ。円陣はなんか俺ららしくねぇから——」  そう言うとアキラはタクトと俺の首根っこをがっと引っ掴んだ。 「行くぞ、俺らは最強だ」  そしてアキラが先陣を切ってステージに上がり、タクトが続き、俺は事前の二人の指示通り、少し遅れて後に続いた。  眩しい。それに暑い。歓声はそこそこあった。おそらくアキラの友人知人やタクト目当てだろう。  俺は真顔でマイクスタンドの前に立ち、一礼して、 「リアル・ガン・フォックスです」  とだけ挨拶した。  三人で決めたことだった。無意味なMCはしない、と。  それを即座に証明するがごとく、アキラが猛烈な勢いでテンポが速く手数も多いリズムを叩き始め、一気に歓声が上がる。クラッシュシンバルを合図に俺もベースを弾き始め、最後にタクトの不協和音ギリギリの絶妙な音色が重なってイントロが始まる。オーディエンスはすでに縦ノリだ。  さあ歌だ、リアル・ガン・フォックスの最初の一声、俺のヴォーカリストとしての産声——  って、え——?

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