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序
吸血鬼、という生き物をご存知でしょうか?
そう。西洋のお話に出てくる、人の生き血を吸って生きながらえる恐ろしい化け物、妖怪のようなものです。しかも、血を吸われた被害者もまた吸血鬼になって、あらたな生贄をもとめるという奇怪きわまりない伝説の悪魔です。
吸血鬼を有名にしたのは、英国の作家、ブラム・ストーカ―の書いた『ドラキュラ伯爵』という小説でしょうか。
他にも詩人のバイロンや、レ・ファニュ、ゴーチェも吸血鬼の物語を書いています。
もちろんすべて絵空事です。
これを読んでいるあなたも、吸血鬼など架空の存在だと思っているでしょう。
吸血鬼などという妖怪は、想像の産物にすぎない。架空の世界のものだと。僕もそう思っていました。
けれど……、驚いたことに、いるのですよ。
僕は、あの夏、吸血鬼と呼ばれる異形のものを、この目で見たのです。
それは確かに恐ろしく、おぞましく、そして妖しく、美しく、不思議となつかしい存在でした。
あれほどに摩訶不思議で、神秘的な生き物はこの世のどこにもいないでしょう。
僕はここに、僕の見た夏の妖しい幻を書き記しておこうと思います。
いつか、この屋敷をおとずれる新たな住人のために。
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