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秘色の屋敷 五
「ほれ、もっとこっちへ来い」
貼りついたような笑みをうかべたまま、望は祖父に引きずられるようにして布団の上にくずれた。
明日死んでもおかしくない年寄りの、いったいどこにこんな力があるのか、不思議でしかたない。老人の飽くなき生と性への執着を見せつけられた気分だ。
「可愛いのう……」
庭の躑躅の花を愛でるときと同じように目をほそめた祖父は、だが花を観賞するときにはない濁った欲望を、かわいた双眼にたぎらせている。
指が、望のシャツの上から背に触れてくる。しばし布の感触をたしかめるようにさすり、やがて直に肌に触れて来る。
望は目を閉じた。
いつものことだ。小等部の頃から、祖父はこんなふうに望を愛撫する。
これがけっして祖父が孫を慈しむ尋常な行為でないことに望は気づいていた。
衣服をうばわれ、体中をまさぐられる。
身体の中心に触れられたときは、いっそうきつく目を閉じる。
少しの我慢だ、と自分に言い聞かせた。
(良いですか、望さま、けっしてお祖父さまのなさることに逆らってはいけませんよ)
都の冷たい瞳が閉じた瞼の裏に浮かぶ。
(お祖父さまを怒らせたら、望さまの未来に傷がつくのですよ)
どういうことなのか意味がわからいでいると、都はかみ砕いて説明してくれた。
(将来、伯爵様になれなくなるのですよ。崇さまは厳しい方です。血のつながった子や孫であっても、お気に召さないと平気で冷酷な真似をなさるのです。忠さまは、あなたのお父さまは、そのせいで爵位継承権を破棄させられたのですから)
将来伯爵になるということが、それほど大事なことだとは、若いというよりまだ幼いような望には、さっぱりわからなかったが、都の目は真剣そのものだった。
(たんに爵位が継げないというだけではないのです……。望さまの未来が……駄目になってしまうのですよ。すべてを失くしてしまうことになるのです)
だから、お祖父さまには決して逆らってはいけません――そう、くどいほどに都は念を押した。
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