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牡丹の闇 二

「何を言う? これぐらい、大したものではないだろう?」  身をかがめると、勇が仁の脚にからみついている白い寝巻をたくしあげる。 (あっ……)  望は口を両手でおさえた。驚きのあまり叫んでしまいそうになったのだ。  薄闇に青白いほどに映える仁の身体。臀部もまた白く、ぼんやりと燐光でも放つように白くかがやいている。その身体の中心に、なにやら異物が見えるのだ。  望は脳味噌が沸騰するかと思った。  中等部にあがってすぐのころ、級友の家に数人で遊びに行った際、「面白いものを見せてやるよ」と彼が自慢げに図鑑のような本を見せてくれた。  望をふくめ、四人の少年たちは目を見張った。  江戸時代の春画を集めた本らしく、男女があられまもない格好でまぐわっているもの、女が自らを慰めているもの、のぞき身をしているもの、などいろいろ載っていた。巨大な蛸に凌辱されている女の絵は圧巻だった。  友人が指で紙をめくるたびに、強烈な世界が展開されていく。  そのなかで、脚をひろげて、奇妙な道具を身体の中心に挿入している女の絵がまた強烈に印象的だった。望はびっくりした。 「こんなこと、するものなのかな?」 「するんだぞ」  やけに大人ぶる友人が、やや小面憎くなった。 「見たことがあるのか?」 「ないが……、兄貴が見たことがあると言っていた」 「どこで見たんだ?」  別の友人が、興味津々で訊く。 「浅草のはずれの裏路地にな、そういうのを見せてくれる店があるらしい」 「へぇ……」  そんなことを言いながら、少年たちの目は絵に引き寄せられてはなれない。  こんなことをする人間が本当にいるのだろうか、これは絵だから、大袈裟に描いているのかもしれない……と少年のかぎられた知識で望は疑問に思っていたが、今、その疑問は消えた。  本当にこういうことはあるのだ。あの珍妙な道具は実在していたのだ。  望の鼓動はいっそう激しくなり、頬は燃えるように熱い。

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