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日影の若葉 一

「望ちゃん……、どうしたのさ?」  名を呼ばれて、望は物思いからさめた。 「あ、ああ、章一か」  学院の裏庭。木陰で昼休みをぼんやり過ごしていた望は、年下のいとこが訝しそうに自分を見ているのに初めて気づいた。 「さっきから呼んでいたんだよ」 「そうか……。考え事していて」 「もしかしてお祖父さまのこと? 母様も心配していたけど……」  章一は、少女のように白い顔に憂いを浮かべて、切れ長の目を悲しげに伏せた。  母親の美貌、さらにはその母である新橋きっての名妓の器量を、そのまま受け継いだ顔である。  望もよく美しい子だと誉めそやされるが、章一の美しさはまた格別だ。  白い、というより青いような肌に、日本人形のような整った顔立ち。小柄で華奢な身体は、少女のようだ。だが、この年頃の子にしては、いまひとつ活気がない。章一はむかしから物静かな子だった。  どことなく哀愁を秘めた面影の少年は、ある意味で強烈に、この男子ばかりの学院で少年たちの気を引いた。  彼が中等部に入学したころはその容貌のため、かなり噂になり、上級生たちは、こぞって彼に付け文送ったという。そのなかには望の友人もいる。  だが、そういった、このころの男子校にありがちな少年同士の求愛に彼がどう答えたかは望は知らなかった。あまり興味もなかった。 「お祖父さま、多分、もって今年いっぱいじゃないかと母様も言ってらしたんだ。望ちゃんは一番お祖父さまに可愛がられていたから、そりゃ心配だよね」  望は笑ってしまった。年下の無邪気ないとこは何も知らないのだ。  望を可愛がってくれた祖父が望になにをしたかも、凛々しい叔父勇が、深夜の別荘で、章一にとっても親戚になる、美しい仁になにをしたか。 (こいつ、なんとなく仁さんに似ているや)  ふと気づいた。親戚なのだから、似ていてもおかしくないが、今はじめてそのことに望は気づいた。 「章、おまえはお祖父さまが死んだら悲しいか?」  章一は、仁が座っている木の長椅子に腰かけた。隣に座った彼から、かすかに良い香がただよってくる。

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